No.236
前立腺放射線療法のための前立腺と直腸の分離の継続的利益:ハイドロゲルスペーサーの無作為化多施設共同単盲検第III相試験の最終結果
Continued Benefit to Rectal Separation for Prostate Radiation Therapy: Final Results of a Phase III Trial
Hamstra DA, Mariados N, Sylvester J, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017 Apr 1;97(5):976-985.
DOI: 10.1016/j.ijrobp.2016.12.024.
目的
前立線癌の放射線治療は直腸毒性リスクによって様々な制約を受ける。前立腺-直腸間を広げることで有害事象を減少し、また線量増加や寡分割照射を容易にし得る。経会陰的にポリエチレングリコールヒドロゲルを注入し、重合・固化する吸収性スペーサー(SpaceOARシステム; Augmenix、Waltham、MA)を評価する前向き無作為化多施設共同単盲検比較試験を行なった。
方法
米国FDAで認可した治験用医療機器に対する適用免除下でIRB承認を得た20施設で行われた。対象は前立腺癌でIG-IMRT 79.2 Gy/44Frを受けるT1またはT2、グリソンスコア≤7、PSA≤20ng/ml、陽性生検コア≤50%、PS0~1の患者が選定された。除外基準は前立腺容積>80cm3、転移、過去の前立腺手術・放射線治療・アンドロゲン除去療法とした。
患者は全て治療計画のためCTとMRIをとり、金マーカーのみの群、金マーカーとスペーサー挿入の群に1:2で無作為化された。処置後に再びCTとMRIをとり、fusion画像でプロトコルに準じて治療計画を作成した。治療中は毎週、治療後は3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、15ヵ月、37ヵ月目で追跡評価を行った。
有効性の主要エンドポイントは 、スペーサー治療により70 Gy以上照射される直腸の体積率(V70)の25%以上の低下とした。また安全性のエンドポイントとして6ヵ月以内のgrade1以上の直腸毒性、手技上の有害事象が設定された。生活の質(QOL)はExpanded Prostate Cancer Index Composite(EPIC)を使用して評価し、以前報告されている臨床的に意味のある最小重要差(MID)と比較した。
結果
2012年1月から2013年4月までに222人が登録され、対照群(N=72)またはスペーサー群(N=149)に無作為化された。15ヵ月目で222例中219例(98.5%)、37ヵ月目で140例(63%)の患者が追跡評価された。
対照群の前立腺-直腸間距離1.6±2.0mmに対し、スペーサー群はベースライン時1.6±2.2mm、スペーサー後12.6±3.9mm、3ヵ月後9.0±5.9mmであった。3ヵ月後からスペーサーは急峻に吸収され、12ヵ月後に残存嚢胞が見られたのは3人(2%)であった。
スペーサー群の97.3%が直腸V70の25%以上の低下を示し、有効性の主要エンドポイントを達成した。早期の直腸毒性または術後有害事象に差は見られなかったが、晩期(3~15ヵ月)の直腸毒性はスペーサー群2%と対照群7%で低く(P=0.04)、スペーサー群でgrades2以上の直腸毒性は見られなかった。37ヵ月でも傾向は変わらず、直腸毒性grade 1(9.2% vs 2.0%; P=.028)およびgrade 2(5.7% vs 0%; P=.012)で、スペーサー群で良い結果となった。陰茎球の線量はいずれもスペーサー群で低くgrade1尿失禁はスペーサー群で低かったが(15% vs 4%; P=.046)、grade2尿毒性の差はなかった(7% vs 7%; P=0.7)。
排便QOLスコアは両群とも3ヵ月時点で低下していたが、6ヵ月以降の排便QOLはスペーサー群が一貫してよく、3年後の差(5.8点; P <.05)はMIDの閾値に合致した。対照群は3年間でスペーサー群と比較して排尿QOLが3.9点低下したが(P <.05)、その差はMID閾値を満たさなかった。また対照群では排便QOL(21% vs 5%; P=.02)および排尿QOL(23% vs 8%; P=.02)において大幅なQOLの低下(MIDの2倍)を認めた。独立したイベント判定委員会は盲検で全ての有害事象を確認したが、デバイス関連の有害事象は1例も認められず、手技に伴う直腸穿孔、重篤な直腸出血、直腸感染症は見られなかった。
結語
スペーサー手技により前立腺-直腸距離が増大し、直腸線量の低下だけでなく直腸毒性の重症度低下や排便QOLスコアの改善が認められた。安全性や有効性が証明され、容易さや成功率にも問題点は見られなかった。これらは長期の経過観察においても維持されていた。
コメント
先行論文であるピボタル試験の長期フォローを行った第3相試験の最終報告である。線量測定分析では直腸V50およびV80の増加と排便QOL低下の相関が見られ、確実な前立腺-直腸スペースの形成による直腸線量の減少だけでなく、排便QOLの改善が見られ、臨床的にも有意義と言える。スペーサーにより前立腺の体幹部定位照射、小線源治療、陽子線治療など線量増加を図る臨床試験にも発展し得る。
精嚢にも照射された患者は前立腺のみに照射された患者より線量が増加する分、排便QOLがより低下する可能性が高いと思われ、精嚢をCTVに含むかは医師の裁量という点が気になったが、スペーサー使用の相対的利益は精嚢の治療とは無関係であった。
先行論文(Mariados N, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 92: 971-977 )ではスペーサー手技者の98%は容易または非常に容易と評価したとあったが、正中に左右対称性に入ったか、Base-apexでムラないか、など手技者による差異もあり得ると思われる。日本では2017年5月に薬事承認、2018年6月に保険収載されて国内でも症例数が増えている。患者のメリットは大きくさらなる普及が望まれるが、今後の技術的な側面でのサポートも必要になると考えられる。
Evidence level:1b
PMID:28209443
(昭和大学江東豊洲病院 新谷 暁史 昭和大学病院 伊藤 芳紀)