No.91
進行子宮体癌に対する全腹部照射と化学療法(ドキソルビシン、シスプラチン)の無作為化第III相試験
Randomized phase III trial of whole-abdominal irradiation versus doxorubicin and cisplatin chemotherapy in advanced endometrial carcinoma: Gynecologic Oncology Group study
Randall ME, Filiaci VL, Muss H, et al.
J Clin Oncol 24:36-44, 2006
目的
術後遺残病巣2cm以下のIII, IV期子宮体癌において、全腹部照射(WAI)とドキソルビシン・シスプラチン(AP)を用いた化学療法の、術後治療としての比較を行なう。
対象と方法
422例が登録された。評価可能の396例のうち、202例が全腹部照射(WAI)群に、194例が化学療法(AP)群に無作為振り分けされた。WAI群では、全腹部照射30Gy/20回、15Gy/8回のboost(全骨盤照射±傍大動脈)が行なわれた。AP群ではドキソルビシン60mg /m2とシスプラチン 50mg/m2を3週間間隔で7コース後、シスプラチン 1コースが追加された。
結果
患者/腫瘍の背景因子は両群で差がなかった。年齢中央値は63才、50%が類内膜腺癌であった。観察期間の中央値は74か月であった。増悪のハザード比は0.71 で、AP群で良好であった(95% CI, 0.55-0.91; P< .01)。無再発生存割合(60か月)は、AP群で50%、WAI群で38%であった。死亡のハザード比は0.68で AP群で良好であった(95%CI, 0.52-0.89; P< .01)。生存割合(60か月)は、AP群で55%、WAI群で42%であった。急性期毒性はAP群で強度であった。治療関連が疑われる死亡は、AP群で8例(4%)、WAI群で5例(2%)であった。
結論
APを用いた化学療法は、WAIに比較して有意に無再発生存と生存を改善したが、更なる有効性の向上と毒性の軽減が必須である。
コメント
GOG#122からの報告である。III, IV期子宮体癌の術後療法として化学療法が優れているとの結論である。
この論文と2005年のASCOで我が国から発表されたJGOG2033の結果を契機に子宮体癌の術後アジュバントとして術後照射から化学療法へのシフトが急速におこりつつある。本研究の対象はあくまで3,4期であること、JGOG2033での陽性結果はあくまで中高リスク群におけるsubset analysisだけなのだが、「術後照射よりも化学療法が有用」という部分だけが一人歩きを初めており注意を要する。GOGのPIIIであること、JCOの論文であることより、エビデンスレベルは相当高いのだが、抗癌剤メーカーや腫瘍内科医の戦略を感じるスタディである。もともと負けがわかっているWAIをかませざるを得ない3,4期を対象としたあたりも非常に巧妙だと思うのは私だけであろうか。彼等のしたたかさに対し、我々も戦略を練っていく必要があると思う。AuthorのRandall先生(GOG RT committeeの前Chair、もちろんRT oncologist)もdiscussionで述べているが、化学療法vs放射線治療の単純図式ではなく、放射線治療(限定されたCTV=全骨盤照射に必要十分な線量)+化学療法の有効性を確認する試験が本当は必要だと思われる。
(戸板 孝文)