No.99
頭頸部癌における過分割照射または加速照射:メタアナリシス(生存率向上を示したエビデンスレベルIaの論文)
Hyperfractionated or accelerated radiotherapy in head and neck cancer: a meta-analysis
Bourhis J, Overgaard J, Audry H, et al.
Lancet 368:843-855, 2006
背景
これまで頭頸部癌において、過分割照射または加速照射といった非通常照射の有用性が多く報告されてきたが、生存率に関する有意差ははっきりした報告がない。本報告の目的は、過分割照射または加速照射の通常照射に対する生存率の有意差を検討したメタアナリシスである。
方法
転移の無い未治療頭頸部癌に対して、過分割照射または加速照射(併せて非通常分割照射)を通常照射と無作為に比較した試験を抽出し、個々のデータをアップデートして収集し分析した。
結果
15の試験で6515患者が分析対象となった。中間観察期間は6年である。主な腫瘍発生部位は中咽頭(全体の44%)と(同34%)であり、5221(74%)例はIII、IV期であった。非通常分割照射法は、5年生存率で3.4%良好であり、通常照射に対して有意差もって良好であった(ハザード比=0.92、95%信頼区間は0.86~0.97、p=0.003)。この差は過分割照射でより明白であった(5年生存率で8%良好、加速照射では総線量減少のあり・なしで1.7%・2%良好)。また、非通常照射法では照射野内(領域・局所)の5年制御率が6.4%通常照射法よりも良好であったが、リンパ節領域(同1.9%)よりも局所制御(同8.5%)でより差が明白であった。生存率上の有利さは50歳未満の若年患者群で最も良好(ハザード比=0.78、95%信頼区間は0.65~0.94)であり、51~60歳群ではハザード比=0.95、95%信頼区間は0.83~1.09、61~70歳群ではハザード比=0.92、95%信頼区間は0.81~1.06、70歳以上群ではハザード比=1.08、95%信頼区間は0.89~1.30であった。
結論
頭頸部癌において、非通常照射は通常照射よりも生存率が良好であり、特に過分割照射でより良好であった。
コメント
通常照射と非通常照射を比較するCochrane Libraryのプロトコルに従って施行された15の無作為比較試験のメタアナリシスの結果である。
これまで、領域・局所制御率の向上はほぼコンセンサスを得ていたが、生存率に寄与することを高いエビデンスレベル(Ia)で明らかにした初めての論文であり強いインパクトがあると考えられる。年齢層別の生存率への寄与度が若年者で高いのは、非腫瘍死が少ないから領域・局所制御の向上が活かされるため、と考察されている。また、過分割照射が加速照射よりも生存率寄与度が高かった理由として、通常照射の方が晩期障害が少ないため、と考察されている。
本論文により、今後少なくとも進行期の中咽頭癌や喉頭癌では過分割照射が標準治療として強く推奨されるべきかと考えるが、高齢者では毒性を増強しないように注意することの重要性も明らかであり、化学療法併用の非通常照射法のメリットやIMRTによる加速照射の評価などについては、尚慎重に科学的分析を待たなくてはならないだろう。
(大西 洋)