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No.214
骨盤放射線療法後に慢性腸機能障害を有する患者に対する高圧酸素(HOT2):シャム*対照二重盲検 無作為比較第3相試験 (*シャム=擬似的処置)

Hyperbaric oxygen for patients with chronic bowel dysfunction after pelvic radiotherapy (HOT2): a randomised, double-blind, sham-controlled phase 3 trial.

Glover M, Smerdon GR, Andreyev HJ, et al.
Lancet Oncology 2016 Feb;17(2):224-33.

目的

本研究は,二重盲検・ランダム化比較第3相試験にて,骨盤悪性腫瘍に対する放射線治療後の慢性腸機能障害に対する高圧酸素療法の効果を検証した。

方法

対象は放射線治療後12カ月以降に, LENT SOMA grade2以上の慢性消化器症状を呈し,最適な薬物療法を3か月以上施行後も症状が3か月以上持続した症例。
高圧酸素療法群では, 酸素濃度100%絶対圧2.4気圧,対照群では酸素濃度21%絶対圧1.3 気圧を用い,週5日8週間継続(合計40回)して治療を行った。

評価法

  • 一次エンドポイント:Inflammatory Bowel Disease Questionnaire(IBDQ)の腸関連項目スコアの変化,直腸出血スコアのベースライン時と治療から12ヶ月後の変化。
  • 二次エンドポイント:LENT SOMA, CTCAEv4.0による消化管指標, QOQ-C30・38の記録を治験開始時と12か月後に比較。

結果

2009年8月~2012年10月に高圧酸素療法群55例およびシャム対照群29例, 計84例を無作為に割り付けた。 高圧酸素療法群46例・対照群23例の分析において, IBDQ腸関連スコアの変化に有意差は認められなかった。 ベースライン時に直腸出血を呈した高圧酸素療法群29例・対照群11例の分析でも, IBDQ直腸出血スコアの変化に有意差は認めらなかった。

考察

高圧酸素療法は, 骨盤照射後の慢性腸症候群の患者の治療法として数十年間用いられており, 2012年に報告された前向き試験のHORTIS試験では, LENT SOMAスコアの改善があったと有効性が報告されている。 しかし本研究では,高圧酸素療法の効果には否定的な結果となった。 HORTIS試験と異なる結果となった要因としては,直腸炎の重症度の振分け群間での相違, 3か月の先行治療不応例に行ったこと, IBDQを用いることの妥当性,照射から臨床試験参加までの期間が3-7年とより晩期であることなど,が考えられた。

コメント

放射線治療後の晩期障害に対する治療に関して, 臨床試験を行うことは大変に難しいが,本研究ではランダム化第3相試験というエビデンスレベルが高い研究が行われ,高圧酸素療法の効果には否定的な結果となった。 しかし,高圧酸素療法群と対象群では疾患割合がやや異なっており(高圧酸素療法群で子宮頸癌・子宮癌が多く, 対照群で肛門癌, 前立腺癌が多い), 投与線量・照射野の大きさ等の放射線治療自体の背景因子が大きく異なっていることが要因となった可能性もあるのではないか。 

放射線治療後の晩期消化器症状は難治性でもあり, 高圧酸素療法は数少ない治療選択肢の1つである。 臨床医としてはサブグループ解析などにより,高圧酸素療法が奏功する因子が明らかにされることを期待する。

Evidence Level: Ib
PMID: 27131078

(東京女医大・泉 佐知子)

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