No.112
GERCOR第二相・第三相試験における局所進行膵癌に対する導入化学療法後の化学放射線療法の効果
Impact of chemoradiotherapy after disease control with chemotherapy in locally advanced pancreatic adenocarcinoma in GERCOR phase II and III studies.
Huguet F, Andre T, Hammel P, et al.
J Clin Oncol 25 3:326-331, 2007
フランスの Groupe Cooperateur Multidisciplinaire en Oncologie(GERCOR)からの報告である.FOLFUGEM(LV,5-FU,GEM),Gem-GEMOX,またはGEMOX(GEM,OXP)の第二相または第三相試験に登録された切除不能局所進行膵癌181例に,導入化学療法として前述の様なGEM併用多剤化学療法を少なくとも3ヵ月継続した.その間に病勢が進行した53例(29.3%)は除外され,残る128例(70.3%)が化学放射線療法群(CRT群:72例,56%)と化学療法群(CT群:56例,44%)とに,背景因子が揃うように振り分けられた.
化学放射線療法についての詳細は以下の通り:GTVと所属リンパ節領域をCTVとした.CTVに1cm(頭尾方向は2cm)のマージンを付けPTV1とした.またGTVおよび腹腔動脈管~上腸間膜動脈レベルの後腹膜リンパ節に1.5cmのマージンを付けPTV2とした.照射野は,上縁はTh11椎体の上縁,下縁はL3椎体の下縁,背側縁は第11胸椎から第3腰椎の椎体中央,腹側縁はCTVより2cm腹側を限度とした.化学放射線療法は最後の化学療法から少なくとも28日間の休止期間を経て開始された.PTV1に対する45Gy/25回/週5回の十字照射を行い,最後の2週間は,これに加えPTV2に対する10Gy/8回/週4回の前後対向二門照射または斜入対向二門照射を併用した過分割照射とし,全体で55Gy/5週間のスケジュールとした.照射期間中には250mg/msqの5-FUが連日併用された.
一方,CT群においては,病状進行あるいは高度の副作用がない限りGEM併用多剤化学療法が継続された.
その結果,無増悪生存期間の中央値は,CRT群10.8ヵ月,CT群7.4ヵ月,そして生存期間の中央値は,CRT群15.0ヵ月,CT群11.7ヵ月と,いずれも統計学的有意差をもってCRT群が勝った.したがって,局所進行膵癌には一次治療としてまず化学療法を行い,増悪のみられない症例に化学放射線療法を行うことを推奨している.
コメント
切除不能局所進行膵癌に対する標準治療は化学療法か化学放射線療法か,いまだ高レベルのエビデンスがなく結論は出ていないということになっている.しかし現実には放射線療法の旗色は悪く,とりわけGEMの登場以来その傾向が強い.放射線療法は化学療法抵抗例の救済治療扱いであったり,それ以前に膵癌治療の選択肢とみなされていなかったり,さらには放射線療法は望ましくないとする意見まである.
本報告には,放射線療法が一次治療として用いられていない点,一次化学療法そして化学療法群がGEM単剤でない点,CRT群かCT群かの割り付けがランダムでない点,変則的な過分割照射を用いている点,そして同時併用化学療法がGEMでない点など,いくつかの不満はある.しかし,化学放射線療法が化学療法奏効例において化学療法の継続以上に有効であったことを見出した本報告は,前述の様な現状では臨床現場における説得材料として利用価値があると考えた.今後,本報告のように導入化学療法を前提とした化学放射線療法も,切除不能局所進行膵癌に対するひとつの選択肢となり得る可能性もある.現在,GERCORと AIO(Arbeitsgemeinschaft Internisttische Onkologie)が合同で同様のプロトコルに
よるランダム化第三相試験を進めているとのことで,結果に注目したい.
(永倉 久泰)