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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.253
FLASH照射下における7-ヒドロキシ-クマリン-3-カルボン酸の生成量の顕著な変化

Significant Changes in Yields of 7-Hydroxycoumarin-3-carboxylic Acid Produced under FLASH Radiotherapy Conditions.
RSC Adv., 2020, 10: 38709-38714, 38709
doi.org/10.1039/D0RA07999E

目的

40Gy/秒以上の線量率で定義されるFLASH照射法は、現在放射線腫瘍学の分野で最も注目されているトピックといえる。抗腫瘍効果は通常線量率の照射と同等であるが、正常組織への障害が大きく低減されることが、細胞や動物を用いた実験で確認されている。当研究では、FLASH照射による正常組織防護効果のメカニズムに迫るため、通常線量率照射とFLASH照射の放射線化学的な反応の差異について検討した。

方法

クマリン-3-カルボン酸(C3CA)の水溶液に0.05~160Gy/秒の線量率で27.5MeVの陽子線を照射し、OHラジカルと反応して蛍光を発する7-ヒドロキシ(7OH)-C3CAの蛍光量を測定した。線量率を変えるだけでなく、溶液の濃度やscavenging time別の変化も詳細に検討されている(結果は割愛)。

結果および考察

FLASH照射では通常照射に比べて7OH-C3CAの蛍光量が1/3に減少した。これは、一瞬のFLASH照射の間に水溶液中に陽子線の飛跡が密に存在するため、飛跡近傍の酸素が水和電子や水素ラジカル等の水の放射線分解生成物と反応して、先に使われてしまったためと考えられる。そのため、酸素が介在したOHラジカルとの反応で生成する7OH-C3CAの蛍光量が大きく減少したと考えられた。つまり、超高線量率で照射された陽子線の飛跡近傍の低酸素化が起きていることが示唆された。なお、この蛍光量は酸素が関わる反応と関わらない反応の2つの反応を検出するので、酸素が関わらない反応については変化がなかったと考えられた。

結論

陽子線照射により水中で発生するラジカルと溶存酸素による反応が、FLASH条件では大幅に低下することを実験的に確認した。これはFLASH治療における陽子線飛跡近傍の低酸素化を示唆する重要な知見である。

コメント

FLASH照射による正常組織の防護の大きな要因が、酸素効果であることを示した貴重な論文である。FLASH効果については、数多くのグループから報告されており、もはや疑う余地は少なくなってきた。近い将来、通常照射にとって代わるかもしれない。そのためには日常臨床で使用できる装置の開発が重要である。原理的には、X線を用いてのFLASH照射は電子線や陽子線に比べて難しいようであるので、陽子線がメインになってくるのではないか。FLASH治療が確立されていけば、現在広く行われているX線治療は過去のものとなってしまうかもしれない。ただし、FLASH効果には一回大線量照射が必要なので、通常分割照射との優劣は検討する必要がある。放射線治療従事者はそのような将来を見据えて、 今後の計画を立てていくべきであろう。

(生物部会・学術WG 芝本 雄太)

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