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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.245
FLASH照射中の放射線分解による低酸素化モデルと、それによる酸素増感比への影響

A computational model of radiolytic oxygen depletion during FLASH irradiation and its effect on the oxygen enhancement ratio

Guillem Pratx PhD and Daniel S Kapp MD, PhD

Physics in Medicine & Biology, 2019, 64.18: 185005.

背景・目的

FLASH効果とは超高線量率(>100Gy/s)で照射することで正常組織反応を顕著に抑えられる現象である(現在臨床に用いられる線量率<0.1Gy/s)。この現象は1960年代に報告されたが、照射技術の進歩とともにin-vivo実験で画期的な成果が示され近年では臨床応用への期待が高まり始めている。しかしその機序は未だ明確でなく、瞬時に照射することにより一時的な低酸素状態を起こす効果や循環する免疫細胞のスペア効果等の仮説が議論されてきた。ここでは酸素による影響をモデル化し検証する。

方法

モデルを以下のように導入する。まず、照射による水の放射分解で水和電子(e-aq)と水素ラジカル(・H)が発生する。化学量論的に、10Gyの低LET放射線で発生するe-aqと・Hの量は組織中の酸素(O2)と反応して(e-aq + O2 →O2・-、・H + O2→H O2・)一時的な低酸素状態を作り出すのに充分である。これによる組織の放射線感受性(α)の変化は、低酸素化率(ROD)、投与線量(D)、酸素増感比(OER)曲線から求められる。そして細胞生存率は、酸素分圧(pO2)、α、RODの値から求められる。これらの値に細胞実験や放射化学実験で得られた値を入力し計算する。

結果

FLASH照射による正常組織の細胞生存率は、正常酸素状態(pO2:40mmHg)で通常照射と変わらないが、低酸素状態(4mmHg)ではDとともにその差は広がり、10Gyで通常照射の2倍になる。FLASH照射による正常組織の放射線耐性は、10Gy(<5mmHg)で30%増、30Gy(<10mmHg)で40%増となる。また、1msの照射時間では組織中でのO2の補充は間に合わずFLASH効果が顕著になる。

結論

FLASH照射により起こる一時的な低酸素状態のプロセスに注目し、その効果の機序をモデル化した。これに基づき、生成物の反応速度に対する考察や、in-vitro実験による検証が更に求められる。

コメント

ここで示されたモデルでは血管近傍のO2の潤沢な領域ではFLASH効果が成立しない。よって血管系から離れた低酸素ニッチに位置する幹細胞の働きによりFLASH効果が引き起こされるという仮説も議論されている。これらの仮説がマウス実験で報告されているようなFLASH効果(脳腫瘍への照射による認知障害や神経炎の有意な低減、肺腫瘍への照射による肺線維化の有意な低減など)をどこまで説明できるのか、更なる知見の集積が求められている。

PMID:31365907

(東京女子医大・寅松 千枝)

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