No.81
直腸癌の術前放射線療法に化学療法を併用することによる抗腫瘍効果の増強:EORTC22921の初期解析
Enhanced tumorocidal effect of chemotherapy with preoperative radiotherapy for rectal cancer: preliminary results-EORTC22921
Jean-Franc,ois Bosset et al.
J Clin Oncol 23(24):5620-5627, 2005
目的
EORTC(European Organisation of Research and Treatment of Cancer)は,T3,T4の進行直腸癌の生存率向上を目的として,術前照射(RT)+化学療法(CT),術後補助化学療法についての臨床試験を行った.今回は,初期効果として術前照射に化学療法を加えたことによる効果について報告する.RTの方法は,原発巣と直腸周囲のリンパ節を含んだ局所照射を45Gy/5週間,同時併用CTは,fluorouracil 350mg/m2/day,leucovorin 20mg/m2/dの5日間投与を,照射の第1週目と5週目に同時併用した.手術後の材料を用いて,RT-CTの効果を病理組織学的に検討した.
対象と方法
1011例が試験に参加した(505例が術前RT,506例が術前RT-CT).評価項目は,腫瘍サイズ,N因子,摘出されたリンパ節の数,組織学的因子(脈管侵襲,神経周囲腔浸潤,分化度,組織型)である.
結果
RT群と比べるとRT-CT群では,腫瘍が小さい(p<.0001),病理学的進達度が浅い(p<.001),病理学的N因子が軽い(p<.001),検査されたリンパ節の数が少ない(p=.046),脈管侵襲が軽い(p<.008)ことがわかった.また,RT-CT群では,mucinous tumor(粘液癌)が多かった(p<.001).
結論
RTにCTを加えることにより,ダウンサイズ,ダウンステージが,より起こりやすくなるだけでなく,明らかな病理組織学的な内容の変化が認められた.今後の長期の経過観察により,局所制御や生存への影響が明らかになるだろう.
コメント
進行直腸癌への放射線治療の利用は,欧米では標準治療となっている.歴史的に,アメリカでは術後照射が,欧州では術前照射の研究が発展してきた.一般に,周術期の照射の併用のみでは局所再発の減少はあるものの,生存率の向上は乏しいと考えられている.現在アメリカでは術後化学放射線療法が標準的治療の一環であり,生存率も高くなるとされている.一方,術前照射の良い点は,再発の減少だけでなく,QOLすなわち肛門温存の可能性が高まることである.この論文は,ヨーロッパで行われてきた術前照射に,FU-baseの化学療法を加えたもので,高い局所効果が報告されている.この効果が,生存とQOL向上に結びつくかどうか,いずれ報告されるだろう.
昨年,日本大腸肛門病学会のパネルデイスカッションに参加したが,手術一辺倒であった腕の良い日本の外科医が,化学放射線療法に理解を示しつつあることを感じた.日本ではあまりやられていないこの領域は,放射線腫瘍医の活躍の場の一つではないでしょうか.
(桜井 英幸)