No.113
早期乳癌の乳房温存療法における高線量照射が局所制御ならびに生存率におよぼす影響:EORTC22881-10882臨床試験のブースト照射の有無のランダム化比較試験の 10年間の結果
Impact of a higher radiation dose on local control and survival in breast-conserving therapy of early breast cancer:10-year results of the randomized boost versus no boost EORTC 22881-10882 trial.
Bartelink H, Horiot J-C, Poortmans P, at al.
J Clin Oncol 25 22:3259-3265, 2007
目的
乳房温存療法を施行したI・II期乳癌患者に対して16Gyのブースト照射が局所制御、線維化と全生存に与える長期間の影響を検討すること。
対象と方法
顕微鏡的完全切除が施行された5,318例を全乳房照射50Gy照射後に16Gyブースト照射群(2,661例)と非ブースト照射群(2,657例)に無作為に割り当て、平均観察期間10.8年間の経過観察をおこなった。
結果
平均年齢は55歳であった。局所再発は、非ブースト群で278例、ブースト照射群で165例に初回再発として報告され、10年累積局所再発率は、非ブースト照射群で10.2%、ブースト照射群で6.2%であった(P<.0001)。
局所再発のハザード比はブースト照射後で0.59(0.46 - 0.76)となり、ブースト照射は全年齢層に対して有益であった。
10歳年齢層別グループ間の比較では統計学的有意差はなかったが、40 歳以下グループで、絶対的なリスクの減少が23.4% から13.5%と最も大きかった。結果として、ブースト照射は救済的乳房切除術の数を41%まで減少させた。高度線維化は、ブースト照射群で10年4.4%と、非ブースト照射群の1.6%に対して有意に増加した(P<.0001)。10年生存率は両群ともに82%であった。
結論
平均観察期間10.8年間で、16Gyのブースト照射は、すべての年齢層での局所制御を改善したが、生存率には差がなかった。
コメント
Bartelinkらは、乳房内局所再発は、腫瘍床47%、術創10%、原発巣以外29%、瀰漫性13%であったとし、局所再発の多くが腫瘍床とその近傍に認められたこともブースト照射の有益性を示す根拠の一つとしている。日本と諸外国では乳房温存療法術での手術手技の“慎重さ”ならびに病理組織診断での断端陽性の定義に違いがあるので、この結果をそのまま我が国の乳房温存療法に外装することには問題があるかもしれない。
一方で、10年経過観察時点で中等度・高度線維化がブースト照射群28.1%, 非ブースト照射群13.2% に認められ、ブースト照射によって有害事象(乳房線維化)が有意に増加した。EORTCは、2001年に5年経過観察時点で中等度線維化が非ブースト照射群9%, ブースト照射群10%、高度線維化がそれぞれ1%で有意差がなかったと報告した(N Engl J Med 2001;345(19);1378-87)。
今回の結果からみると、観察期間が延長すると、照射線量の増加に伴って遅発性有害事象である乳房線維化の頻度が増加する可能性が示唆される。乳房短期照射法などでは、一回照射線量が増加するので、遅発性有害事象については、さらに十分な配慮が必要とされる。
(野崎 美和子)