No.89
成人低悪性度星細胞腫および乏突起膠腫に対する術後照射または再発時放射線治療の長期治療成績:EORTC 22845ランダム化比較試験
Long-term efficacy of early versus delayed radiotherapy for low-grade astrocytoma and oligodendroglioma in adults: the EORTC 22845 randomised trial
van den Bent MJ, Afra D, de Witte O, et al.
and the EORTC Radiotherapy and Brain Tumor Groups
and the UK Medical Research Council
Lancet 366:985-990, 2005
背景
低悪性度神経膠腫に対する術後の治療方針として、経過観察するべきか術後照射を行うべきかは明確にされていない。1980年代中頃に開始された臨床試験で術後照射の線量は確立された。1986年、EORTCの放射線治療と脳腫瘍のグループは、術後照射と再発時放射線治療を比較する前向き試験を開始した。中間解析結果は報告したが、本論文では長期治療成績について報告する。
方法
欧州の24施設からの患者が、術後に54Gy/30f(1.8Gy/f)の放射線治療を受けるか、再発時に放射線治療を受けるか(コントロール群)にランダム化された。適格基準は、WHOのPS 0-2で、低悪性度星細胞腫、乏突起膠腫、乏突起星細胞腫、全摘されていない毛様細胞性星細胞腫とした。統計解析はintention-to-treat で行われ、主たるエンドポイントは全生存期間と無増悪生存期間であった。
結果
術後照射群154例、コントロール群157例であった。中間無増悪生存期間は、術後照射群で5.3年、コントロール群で3.4年であった(ハザード比0.59、95%信頼区間0.45-0.77、p<0.0001)。全生存期間は両群間で同様で、術後照射群の中間生存期間は7.4年、コントロール群で7.2年であった(ハザード比0.97、95%信頼区間0.71-1.34、p=0.872)。コントロール群では、65%の症例が再発時に放射線治療を受けた。1年時点で、癲癇は術後照射群のほうが制御されていた。
結論
術後照射は無増悪生存期間を延長するが全生存期間には寄与しない。QOLに関しては評価されておらず、増悪までの期間が臨床症状増悪に影響するかどうかは不明である。注意深く経過観察することによって、全身状態良好な低悪性度神経膠腫患者に対する放射線治療は先送り可能であろう。
解説
低悪性度神経膠腫や良性脳腫瘍など、予後が長い脳腫瘍に対する放射線治療の意義は、これまでエビデンスとして確立しているものはなく、そのような観点から、本論文は重要といえます。本臨床試験の結果、術後照射群とコントロール群で予後が同等であったことより、治療方針を考える上で、全身状態、神経症状、認知機能などの臨床症状が1つの判断基準となりますが、残念なことに、本研究では症状に関する詳細な評価はなされておりません(本研究が開始された約20年前は、臨床研究における症状評価に対する研究者の認識が、現在よりも低かったのでしょうか?)。現状、敢えて標準治療を1つに決めるとすれば、やはり術後照射ということになると思いますが、低悪性度神経膠腫患者のなかでもリスクが異なっており、本論文中にも記載されていますようにリスクに応じた治療方針決定が望まれます。RTOG 9802では、40歳未満の全摘された(すなわち低リスク)低悪性度神経膠腫患者を術後照射なしで経過観察しましたが、症例登録を終了しており、発表後はこの結果も考慮すべきと思われます。
(最後に、予後が長い脳腫瘍に関する臨床試験の参考として、対象が低悪性度神経膠腫ではありませんが、EORTCでは、全摘されていない髄膜腫に対し、放射線治療の有無でランダム化した比較試験を施行中であることにも触れておきます。)
(多湖 正夫)