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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

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No.222
EGFR / ALK駆動性肺癌患者の脳転移に対する治療選択肢

Treatment options for patients with brain metastases from EGFR/ALK-driven lung cancer.

Doherty MK, Korpanty GJ, Tomasini P et al.

Radiother Oncol. 2017 Mar 28. pii: S0167-8140(17)30103-2. doi: 10.1016/j.radonc.2017.03.007. [Epub ahead of print]

はじめに

EGFR / ALK遺伝子変異・転座の進行肺癌例ではチロジンキナーゼ阻害薬(TKI)が著効することがある。最近 EGFR / ALK陽性肺癌の脳転移治療に全脳照射や定位照射、あるいはTKI単独で経過を見るべきか迷うことがしば しばある。
本論文はヒストリカルではあるがEGFR / ALK陽性NSCLCの脳転移を有する患者の第一選択に全脳照射(WBRT)、 定位照射(SRS)またはTKI単独の治療がアウトカムにどのように影響するかを評価した報告である。

方法

単一センターのレトロスペクティブレビューで、EGFR / ALK遺伝子変異・転座NSCLC由来の脳転移を有する184人の患者が対象で、頭蓋内転移増悪までの時間(Time to intracranial progression : TTIP)および全生存期 間(OS)に対する各治療法選択の効果を分析した。

結果

脳転移の第一選択の治療法としては、WBRT(30Gy/10fr or 20Gy/5fr)+TKIが行われた症例が120例、SRS(辺縁線 量15-21Gy)+TKIが37例およびTKI単独が27例であった。 WBRT治療例は、より多くの脳転移およびそれによる症状を有していた。 中央値TTIPは、WBRT例が50.5ケ月とSRS群12ケ月、TKI群15か月と比べて有意差を持って長 かった(p = 0.0038)。 OS中央値はWBRT群21.6ヶ月、SRS群23.9ヶ月およびTKI群22.6ヶ月で有意差は見られな かった(p = 0.67)。 EGFR遺伝子変異群、ALK遺伝子転座群それぞれのOS解析(症例数は少ないが)でも治療法 による有意差は出なかった。OS短縮因子は単変量解析では65歳以上、他臓器転移で発見された例、5個以上の脳 転移例、脳転移初回治療での不応例、頭蓋外転移病変の多い例、および肝、骨転移例であった。多変量解析では 65歳以上(HR 2.2、p = 0.0014)、5個以上の脳転移(HR 2.48、p = 0.0002)およびより多くの頭蓋外転移を有 する例(2 vs 0-1 HR = 2.05、p = 3+ vs 0-1 HR = 2.95、p = 0.0001)であった。

結論

EGFR / ALK遺伝子変異・転座NSCLCの脳転移の初回治療 としてWBRT群、SRS群、TKI単独群でOSに差はなかった。
WBRT群は予後不良症例が多いにもかかわらずTTIPが有意に長かった。全脳照射後の認知機能低下を考慮すると、 長期生存が期待できる患者にはSRSやTKI単独治療を考慮しつつ慎重に患者を監視し適切な時期に救済治療を選択 すべきであろう。

コメント

そもそも昔から行われてきた30Gy/10frの全脳照射の線量処方は長期予後を想定していないプロトコールで、進行肺癌でも長期生存が可能な例が増えた近年ではますます認知機能への影響を考える必要がでてきた。この報告 はこの問題に何らかのヒントが得られるのではないかを意図とした研究と思われる。結果はどの治療もOSに差は ないがWBRT例は頭蓋内病変の増悪までの期間が長いとする結果からその間の認知機能低下が危惧される。しかし ながら本論文では認知機能に関しての分析は無く、しかも内容を詳しく見ると全脳照射例にもさまざまな追加治 療が加えられておりかなり苦しい解析結果になったと感じる。いずれにしても我々放射線治療医も多発脳転移= 全脳照射の時代ではなくなったことは否めない。難しいかもしれないがTKIを含めた前向き試験結果が期待さ れる。

Evidence Level 2b
PMID 28363487

(順天堂大学付属練馬病院・直居 豊)

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