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No.218
化学放射線療法後CRとなった直腸癌症例において、Watch-and-wait approachと外科的切除はどちらが良いか:傾向スコアマッチングを用いた解析

Watch-and-wait approach versus surgical resection after chemoradiotherapy for patients with rectal cancer (the OnCoRe project): a propensity-score matched cohort analysis.

Renehan AG, Malcomson L, Emsley R, et al.
Lancet Oncol. 2016 Feb;17(2):174-83.

背景

Induction therapyとして化学放射線療法を行った直腸癌において、臨床的CRが得られた場合に外科切除せずに経過観察(Watch-and-wait approach)を行う選択肢が浮上してきた。しかしまだ安全性に関してエビデンスの不足している治療であり、それに対処するために、臨床的CRとなった症例に対するWatch-and-waitと外科切除の成績を比較した。

対象と方法

2011年~2013年にかけてマンチェスター3次がんセンターにおいて直腸腺癌に対し術前治療として45Gy/25fr+フッ化ピリミジンを併用した化学放射線療法を行ない、臨床的にCRとなった患者群と、2005年~2015年までに隣接するがんセンターで臨床的CRが得られWatch-and-waitがなされた患者群を対象とした。
比較分析のために、Watch-and-waitと外科切除が1:1のペアとなるようにT因子、年齢およびPSを傾向スコアマッチングさせた。
主要評価項目は無再発/無病生存期間、副次評価項目は総生存期間および人工肛門を使用しない生存期間(colostomy-free survival)であった。また、P値0.01未満を統計学的有意と定義した。

結果

マンチェスター3次がんセンターで登録された259例のうち、228例が外科的切除を受け、31例が臨床的CRとなりWatch-and-waitを受けた。さらに隣接するがんセンター経由で登録されたWatch-and-waitの98例を加えた。
Watch-and-wait群の129例(平均観察期間33ヶ月)のうち、34%(44例)に局所再増大を認めた。非遠隔転移局所再発であった41例中36例では救済手術が行われた。
Watch-and-wait群と前述の外科切除を受けた228例から傾向スコアマッチングを用いて背景因子をマッチさせた108例ずつのペアを選び比較解析を行った所、3年非再発・無病生存期率に有意差は認められなかった(Watch-and-wait群 88% vs 外科切除群 78%)。同様に3年総生存率にも有意差は認められなかった(Watch-and-wait群 96% vs外科切除群 87%)。対照的に、Watch-and-wait群では外科切除群に比べて有意に良好な3年colostomy-free survivalが得られた(74% vs 47%)。

結論

直腸癌の治療においてWatch-and-waitを行う事で、ある程度の割合で人工肛門増設を避ける事ができた。

コメント

当施設においても近年、T3/T4の局所進行直腸癌に対して術前の化学放射線療法を依頼される事が多くなってきている。また手術拒否例や、合併症による手術困難例に対して根治を目指した化学放射線療法を行い、ある一定の割合でCRとなる症例を経験している。
局所進行直腸癌症例全体からすると1割~2割程度の少ない割合かもしれないが、治療開始前にこのような著効例が何らかのバイオマーカー探索で見出せるようになるかどうか、個人的にはとても興味のある所である。

PMID: 26705854
Evidence Level -

(札幌医大・染谷 正則)

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