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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.73
転移性脊髄圧迫に対する5種類の放射線治療スケジュールと予後因子についての検討

Evaluation of five radiation schedules and prognostic factors for metastatic spinal cord compression

Dirk Rades, Lukas J A Stalpers, Theo Veninga, et.al.
J Clin Oncol 23(15):3366-3375, 2005

目的

転移性脊髄圧迫に対する5種類の放射線治療スケジュールと機能的予後の関係について検討をおこなった。

対象と方法

1992年から2003年に治療された1300症例をretrospective に検討した。5つの治療スケジュールすなわち、8Gy×1回/1日(n=261), 4Gy×5回/ 1週(n=279), 3Gy×10回/ 2 週(n=274), 2.5Gy×15回 / 3週(n=233), 2Gy×20回 /4 週(n=257)を運動機能、歩行可能か否か、照射野内再発の有無で比較検討した。放射線治療後の機能的予後因子として、年齢(63歳以下 vs. 64歳以上)、性別、PS(ECOG PS 1-2 vs. 3-4)、原発病巣の組織分類(favolable, intermediate, unfavolable)、病変のある椎体の個数(1-2個、 3-4個、5個以上)、癌の診断から脊髄圧迫までの期間(24ヶ月以下 vs. 24ヶ月以上)、放射線治療前に歩行可能か否か、運動機能障害の完成に要した期間(1-7日、8-14日、14日以上)について、単変量解析(Kaplan-meier 法)、多変量解析(Coxハザードモデル)で検討した。

結果

運動機能の改善はそれぞれ26%(8Gy×1回), 28%(4Gy×5回), 27%(3Gy×10回),31%(2.5Gy×15回), 28%(2Gy×20回)に得られ、治療後の歩行可能な割合は69%, 68%, 63%, 66%, 74% であった(P=.578)。 多変量解析では、年齢、PS 、原発病巣の組織分類、病変椎体数 、癌の診断から脊髄圧迫までの期間、治療前に歩行可能か否か、運動機能障害の完成に要した期間 はいずれも治療後の運動機能影響を与える有意な因子であったが、治療スケジュールは影響を与えなかった。急性期有害事象は軽度であり、晩期有害事象は見られなかった。2年後の照射野内再発は24%(8Gy×1回), 26%(4Gy×5回), 14%(3Gy×10回), 9%(2.5Gy×15回), 7%(2Gy×20回)であった(P < .001)。8Gy×1回群と4Gy×5回群(P=.44)間、 3Gy×10回, 2.5Gy×15回, 2Gy×20回群の間(P=.71)にはそれぞれ有意差なかった。

結論

5種類の治療スケジュールは同等の機能改善効果を得た。長期間の3つのスケジュールでは照射野内再発が少なかった。長期予後が期待できない場合は治療期間を短くするために8Gy×1回が推奨され、長期予後が期待できる患者には3Gy×10回が推奨される。今後この結果は、randomized prospective studyで検討する必要がある。

コメント

癌患者の経過中5-10%の頻度で転移性脊髄圧迫が起こるとされており、患者QOLを大きく左右する。多くは全身状態不良であり、負担が少なく有効な治療法の選択が望まれる。骨転移の疼痛については、治療スケジュールで効果に優劣ないことが1999年に2つのrandomized trialで報告されている(Radiother Oncol 52:111-121,1999, Radiother Oncol 52:101-109,1999)。しかし、脊髄圧迫による運動機能障害については治療スケジュールの比較試験の報告がなく、最適な治療スケジュールが不明であった。脊髄圧迫を生じ余命4-6ヶ月未満と考えられる場合、8Gy×1回の短期治療スケジュールが推奨される事が示唆された。


(内田 伸恵)

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