No.125
肛門管癌に対するフルオロウラシル(5-FU)とマイトマイシン(MMC)併用放射線療法と5-FUとシスプラチン(CDDP)併用放射線療法のランダム化比較試験
Fluorouracil, mitomycin, and radiotherapy vs fluorouracil, cisplatin, and radiotherapy for carcinoma of the anal canal: a randomized controlled trial.
Ajani JA, Winter KA, Gunderson LL, et al.
JAMA 299 16:1914-1921, 2008
Context
根治的化学放射線療法は肛門管癌症例に対する推奨される一次療法である。しかし、5?FU+MMC併用放射線療法にても5年無病生存割合は約65%である。
Objective
肛門管癌の治療において、5-FU+CDDPの治療(試験治療)と5-FU+MMCの治療(標準治療)の有効性を比較する。
Design, Setting, and Participants
5-FU+MMC併用放射線療法と5?FU+CDDP併用放射線療法を比較する米国消化器領域のintergroup trialとして施行された多施設共同ランダム化比較試験 (RTOG 9811)に、肛門管癌682例が1998年10月31日から2005年6月27日までに登録された。層別因子は性別、リンパ節転移の有無、腫瘍径とした。
Intervention
試験参加者は2群のうちの1群にランダムに割り付けられた。
(1)5?FU+MMC群(341例):5? FU (1000mg/m2 第1?5、29?32日)とMMC (10mg/m2 第1, 29日)と放射線治療(45?59 Gy)、(2)5?FU+CDDP群(341例):5?FU (1000mg/m2 第1?5、29?32、57?60、85?88日)とCDDP (75mg/m2 第1, 29, 57, 85日)と放射線治療 (45?59 Gy; 治療開始日は第57日)。
Main Outcome Measures
プライマリーエンドポイントは5年無病生存割合であった。セカンダリーエンドポイントは全生存期間や再発までの期間であった。
Results
644例が解析可能であり、全症例の観察期間中央値は2.51年であった。年齢中央値は55歳で、69%が女性、27%が腫瘍径5cm 以上、26%がリンパ節転移陽性であった。5-FU+MMC群の5年無病生存割合は60% (95%信頼区間[CI], 53%-67%)、5-FU+CDDP群は54% (95%CI, 46%-60%)であった(P=0.17)。5年全生存割合は5-FU+MMC群で75% (95%CI, 67%-81%)、5-FU+CDDP群は70% (95%CI, 63%-76%)であった(P=0.10)。5年 局所領域再発と遠隔再発は、5-FU+MMC群で各々25% (95%CI, 20%-30%)と15% (95%CI, 10%-20%)、5-FU+CDDP群で各々33% (95%CI, 27%-40%)と19% (95%CI, 14%-24%)であった。人工肛門造設割合は5-FU+CDDP群よりも5-FU+MMC群の治療のほうが有意に低かった(10% vs. 19%; P=0.02)。重度の血液毒性は5-FU+MMC群
の治療で多かった(P<0.001)。
Conclusions
肛門管癌の今回の対象において、5-FU+CDDPの治療は5-FU+MMCの治療に比し、無病生存期間の向上は得られず、5-FU+CDDPの治療で有意に人工肛門造設割合が高かった。これらの結果により、肛門管癌の治療における5-FUと放射線療法の併用として、MMCの代わりにCDDPを使用することは支持されない。
コメント
本臨床試験の対象は、cT2-4N0-3の扁平上皮癌または類基底細胞癌である。手術と直接比較した試験はないものの、治療成績は手術と同等で、肛門温存が可能であり、遺残・再発した場合にも救済手術が可能であるため、海外では根治的化学放射線療法が一次治療である。また、RTOG 8704 (J Clin Oncol 1996, 14, 2527-2539)の結果で、5-FU併用放射線療法にMMCを付加することにより、5-FU併用放射線療法に比し、有意に無病生存期間、肛門温存生存割合が優れており、5-FU+MMC併用放射線療法が化学放射線療法の標準治療レジメンとして確立されている。
本試験では、MMCを CDDPに置き換える試験治療によって5年無病生存割合が63%から73%へと10%の上乗せを検証する優越性の設定であったが、登録終了後の中間解析で、プライマリーエンドポイントである無病生存期間で試験治療群が勝つどころか生存曲線が標準治療群の下にあり、今後発生するイベントを加味しても有意差はでないであろうと判断したデータモニタリング委員会から結果の早期公表を勧告され、2006年のASCO annual meetingで報告された。本臨床試験は5-FU+MMC併用放射線療法と5-FU+CDDP併用放射線療法の直接比較ではなく、試験治療群は導入化学療法として2コースの5-FU+CDDPを施行している。導入化学療法を組み入れた理由として、最初に腫瘍体積を縮小させることで、引き続く化学放射線療法によって更なる局所制御と肛門温存生存期間の向上が得られることを期待しており、先行する2つの単施設での第2相試験では良好な成績であった。この導入化学療法が治療成績を下げている可能性があるが、現時点では、5-FU+CDDP併用放射線療法を一次治療に使うエビデンスはないことが分かった。では、 1コース目から5-FU+CDDP併用放射線療法を施行することで、成績向上が得られるのではという疑問がわいてくるが、現在イギリスで5-FU+MMC 併用放射線療法と5-FU+CDDP併用放射線療法を比較するランダム化比較試験(ACT-2)を施行中であり(2009年に予定の950例が集積終了予定)、数年後にその答えを出してくれるであろう。
日本においては、肛門扁平上皮癌は稀少疾患であり、エビデンスがない状況のまま、従来手術(腹会陰式直腸切断術)が行われることが多かったが、近年、根治的化学放射線療法に治療方針がシフトしてきている。実際に治療を経験してみると、そのレスポンスの高さに驚きます。現在、本邦でのエビデンス確立と治療成績向上のために、多施設共同臨床試験が計画されています。
(伊藤 芳紀)