No.226
成人の緩和的放射線治療における30日死亡率 - 14,972件の治療エピソードの遡及的集団ベース研究
30 day mortality in adult palliative radiotherapy - A retrospective population based study of 14,972 treatment episodes
Spencer K, Morris E, Dugdale E, et al.
Radiother Oncol. 2015 May;115(2):264-71. doi:
10.1016/j.radonc.2015.03.023
背景
「30日死亡率(30-day mortality;30DM、本文中の定義では、治療開始日から30日以内の死亡者数の集団全体における割合)」はNHS(National Health Service、英国の国民医療制度)内で緩和的放射線治療の害を避ける臨床的指標として示唆されているが、大規模な集団ベース研究は存在しない。大規模遡及的コホート研究である本研究の目的は、緩和的放射線治療後の30日死亡率に影響を与える因子を調査し、臨床的指標としての30日死亡率の意義を検討することである。
方法
2004年1月~2011年4月に大規模な英国のがんセンター一施設(Leeds Cancer Center)で行われたすべての放射線療法のエピソードを分析した。 緩和放射線療法のパターン、30日死亡率および30日死亡率に影響を及ぼす変数を評価した。 ロジスティック回帰を用いてこれらの変数の影響を評価した。
結果
全放射線治療エピソード42792件のうち、(不完全治療例や良性疾患・血液疾患・黒色腫以外の皮膚癌、25歳未満等の症例を除く)14,972の緩和的エピソードを分析した。 治療時の年齢の中央値は70歳(25~101歳)であった。原発疾患別には順に肺(25.3%)、乳房(14.7%)、前立腺(14/5%)、大腸(5.2%)などであった。6334件(42.3%)の治療を骨転移に、2356件(15%)を肺癌の胸部に、915件(5.7%)を脳に施行した。 治療回数はそれぞれ1回が50.5%、2~4回が11.4%、5回が23.7%、6~9回が2.2%、10回以上が12.3%で、治療期間の中央値は1日(IQR 1-7)であった。
集団全体の生存期間の中央値は169日間(67~436日間)で、30日死亡率は12.3%であった。 30日死亡率に有意な影響を与えた要因は、性別、原発部位、治療部位および治療分割スケジュールであった。特に原発部位別の30日間死亡率は、肺が17.29%と有意に高かった一方で、乳房で6.95%、前立腺で7.47%であった(p<0.001)。また、治療分割スケジュール別には、1回で16.74%、2~4回で11.9%であった一方、6~9回で5.54%、10回以上で2.78%と有意差を示した(p<0.001)。
結語
本研究は、選択されていない成人の緩和放射線治療に対する30日死亡率に関する最初の大規模な記述である。 ここに示された治療分割による早期死亡率の差異は、緩和放射線療法における臨床的意思決定を評価する上でこの方法の使用を支持するものであり、他のセンターおよび医療システムにおいて更なる研究を必要とする。
コメント
本文にも引用されていますが、進行がん患者の予後予測において腫瘍医があまりにも楽観的すぎる傾向があることが示されている(Chow E, IJROBP, 2005)一方で、医療従事者の過度の治療への恐怖も緩和的放射線治療へのアクセスを減らす可能性のある要因であることも報告されています(Luts S, JCO, 2004)。したがって、適切に緩和的放射線治療が提供され、また意思決定の上で選択されるためには、治療の妥当性を評価する指標が求められており、本研究で示された「30日死亡率」もその有力な候補になり得ると考えます。また、化学療法における早期死亡率の結果をフィードバックすることで腫瘍内科医の化学療法の処方行動に影響を与えうることも報告されており、今後の研究としてこうした指標を用いたデータの累積が、放射線腫瘍医の判断材料として有益であろうと考えます。
PMID: 25861831
Evidence Level 2b
(前橋赤十字病院 清原 浩樹)