(2024年12月更新)
No.283
134Ce/225Ac-Macropa-PEG4-YS5を用いた前立腺癌に対するCD46標的α線治療薬の開発
Development of CD46 targeted alpha theranostics in prostate cancer using
134Ce/225Ac-Macropa-PEG4-YS5
Theranostics. 2024;14(4):1344-1360. doi: 10.7150/thno.92742.
この研究のポイント
本研究では、α線放出核種225Acを用いて、前立腺癌で高発現するCD46を標的とする標的α線療薬の開発に取り組んだ。キレート剤Macropaとポリエチレングリコール(PEG)リンカーを導入することで、腫瘍集積性及び抗腫瘍効果の高い225Ac標識免疫複合体を開発した。加えて、225Acの代わりに134Ceで標識することで、PETイメージングが可能であった。
研究の概要
- 標的α線療法は、抗体などを用いてα線放出核種を腫瘍に集積させることで、腫瘍選択的にα線を照射する治療法である。標的α線療法の核種として、壊変の過程で4つのα線を放出する225Acが注目されており、225Ac標識薬剤が従来の治療に抵抗性を示した患者にも有効であることが臨床試験で示されている。
- 著者らはこれまでに、補体制御因子CD46を標的とするYS5抗体と225Acをキレート剤DOTAで結合させた225Ac-DOTA-YS5を開発し、前立腺癌の前臨床モデルで抗腫瘍効果を実証したが、標識効率や安定性、標的外毒性などの課題があった。
- 本研究では、225Acを効率的に標識できるキレート剤Macropaと、抗体―薬物複合体の標的部位への伝達を強化し標的外毒性の軽減を可能とするPEGリンカーを導入し、225Ac-Macropa-PEG0/4/8-YS5(PEG0/4/8はそれぞれ、エチレングリコールの繰り返し単位が0、4、8個)を開発し、前立腺癌に対する治療効果を検証した。さらに、225Ac と化学的類似性を示し、娘核種134Laが陽電子を放出する134Ceを利用し、PETイメージングに取り組んだ。
- 225Ac-Macropa-PEG0/4/8-YS5は225Ac-DOTA-YS5と比べて標識効率及び放射化学的収率が高かった。ヒト血清での安定性は、225Ac-Macropa-PEG4/8-YS5が優れていた。
- ヒト前立腺癌細胞22Rv1異種移植モデルを用いた摘出臓器での生体内分布解析では、225Ac-Macropa-PEG4-YS5の腫瘍取り込みが最も高く、腫瘍対血液比及び腫瘍対腎臓比も他の誘導体と比較して優れていた。
- 134Ce-Macropa-PEG0/4/8-YS5によるPET/CTイメージングでは、腫瘍への取り込みが時間とともに増加することが観察された。摘出臓器での生体内分布解析でも、腫瘍での最大分布が確認された。
- 無胸腺ヌードマウスを用いた慢性毒性評価では、225Ac-Macropa-PEG4-YS5の4.625kBq及び9.25kBqの投与で軽度から中等度の腎毒性が観察されたが、他の主要臓器では顕著な毒性は観察されなかった。
- 22Rv1異種移植モデルにおける治療効果の検証において、225Ac-Macropa-PEG4-YS5の4.625kBq及び9.25kBqの単回投与により、投与量依存的に生存率が改善した。225Ac-Macropa-PEG4-YS5の4.625kBq単回投与の治療効果は225Ac-DOTA-YS5より優れており、4.625kBqの3回投与では治療効果が大幅に向上した。
まとめ
本研究は、MacropaとPEGリンカーを導入し、新規複合体225Ac-Macropa-PEG4-YS5を開発した。この複合体は、従来の225Ac-DOTA-YS5と比較して腫瘍集積や治療効果が向上し、軽度から中等度の腎毒性を伴いながらも効果的な抗腫瘍効果を示した。加えて、134Ceを用いたPETイメージングにより、治療と診断を融合させたセラノスティクスの可能性が示された。
吉野 浩教・弘前大学(生物部会・学術WG)