(2024年10月更新)
No.281
p53は重篤な放射線障害後の再生腸管における幹細胞回復を促進する
p53 promotes revival stem cells in the regenerating intestine after severe radiation injury Nat Commun 2024; 15: 3018. doi.org/10.1038/s41467-024-47124-8
この研究のポイント
消化管の放射線感受性は、腹部、骨盤領域の悪性腫瘍に対する放射線治療の効果を制限する。したがって、放射線による消化管障害と再生のメカニズムを理解することは非常に重要な課題である。今回の研究により、p53は照射された腸管上皮細胞の胎児様リプログラミングを促進することにより、重篤な放射線誘発消化管障害を抑制することが明らかになった。
研究の概要
- 1) 腸管上皮のp53機能を保持したマウス(VillinCre; p53FL/+)およびp53を完全に欠損させたマウス(Villin Cre; p53 FL/-)の小腸陰窩細胞において、頭側半身を鉛で遮蔽した12 Gyの亜全身照射または偽照射の2日後にシングルセルRNA-seqを行った。細胞特異的マーカー遺伝子の発現に基づきEpcamを発現する上皮細胞を抽出後、転写プロファイルの異なる18の異なる細胞グループ(クラスター0-17)が同定された。それらは、陰窩基底円柱(CBC)細胞1と2、トランジット増幅(TA)細胞、パネート細胞1と2、Abs_prog細胞、吸収上皮細胞(Z1、Z2、 Z3、Z4とZ5)、杯(Goblet)細胞1と2、タフト細胞、腸内分泌(EE)細胞、および照射後の腸上皮に出現するクラスター10、14、17細胞である。
- 2) クラスター10と14細胞は傷害を受けた腸上皮の再生に関連する胎児様遺伝子Ly6aを発現していた。クラスター14細胞はClu、Areg、Anxa2などのマーカー遺伝子を発現する復活幹細胞(revival stem cells; revSCs)だったが、クラスター10細胞のCluの発現はrevSCsと比較してはるかに低く、Olfm418やAscl219のような特定のCBCマーカーも発現していたため、この細胞を胎児様CBC細胞(fetal-like CBC cells; FCCs)と名付けた。revSCsは大部分が休止期であるのに対し、FCCsは高度な増殖性を示し、どちらもp53標的遺伝子の発現が顕著に増加していた。なお、本論文ではクラスター17細胞に関する特徴評価は行っていない。
- 3) 急性放射線障害後の腸管上皮細胞におけるClu+ revSCsの出現は、Yes-associated protein(Yap)を含むいくつかの重要なシグナル分子によって誘導されることが証明されている。本研究グループのシングルセルRNA-Seqデータおよび他グループが発表したYap亢進モデルにおけるシングルセルRNA-Seqデータを検証し、Yapシグナルがp53経路の活性化と協調してrevSCsを誘導していることが支持された。
- 4) 一方、Villin Cre; p53 FL/-マウスでは、照射後のrevSCsとFCCsの出現および陰窩再生が損なわれていた。系統追跡実験用の4-OHT誘導Clu依存性tdTomato発現マウス腸オルガノイドにおいて、p53阻害剤であるピフィスリンαを処理すると照射後にLgr 5+; tdTomato+クリプト(Clu+ revSCsの子孫)の割合が有意に減少したが、Mdm2阻害剤であるNutlin-3で処理すると、p53タンパク質レベルが著しく上昇し、照射後のCluを介した陰窩再生が減少した。実際に照射されたマウス腸管上皮細胞におけるp53タンパク質の発現は一過性であり、その減少はMdm2の誘導と関連していた。
まとめ
これらの結果からClu+ revSCsがp53依存的に腸上皮陰窩の再生に寄与していることが示された。Mdm2を阻害してp53を長期間活性化すると、放射線照射後にrevSCsが陰窩を再生する能力も抑制されることから、p53タンパク質レベルはp53-Mdm2フィードバックループを介して一過的に上方制御され、照射された腸上皮の適切な再生を促進することが明らかになった。
森田 明典・徳島大学(生物部会・学術WG)