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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.280
単一細胞および空間プロファイリング解析によってトリプルネガティブ乳がんにおけるペンブロリズマブと放射線治療に対する3つの治療反応系譜を同定

Single-cell and spatial profiling identify three response trajectories to pembrolizumab and radiation therapy in triple negative breast cancer Cancer Cell 2024 Jan 8;42(1):70-84. e8. doi: 10.1016/j.ccell.2023.12.012.

この研究のポイント

乳がんに対して放射線治療および免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を併用した症例を対象とした、大規模なシングルセル解析である事が注目すべき点である。治療前・治療中、治療後の腫瘍組織における免疫細胞の種類と分布を、治療が奏効したか否かの臨床情報と併せてシングルセルレベルで解析することで、治療が奏効する症例の特徴点を同定した。

研究の概要

  • トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、乳がんのサブタイプの中で比較的免疫療法が有効であるが、ICI単独療法の効果は限られている。マウスモデルにおいて、ICIと放射線治療の併用がabscopal効果を誘導することが報告されている。しかし、臨床においてICIと放射線治療の併用による効果は十分とはいえず、放射線治療が免疫応答に与える影響をより詳細に解明することが求められている。
  • 本研究の目的は、TNBC患者においてICI単剤治療後および放射線治療を併用した際に、免疫応答がどのように変化するかを明らかにし、治療が奏効する患者と治療抵抗性の患者のそれぞれの特徴を同定することである。
  • TNBC患者に対して術前にICIとしてペンブロリズマブ投与と放射線治療を行った50症例を対象に、3つのタイミング(治療前・ICI単剤投与後・ICI+放射線治療後)で採取した生検組織を解析対象とした。空間的な多重免疫染色が行えるCODEXを用いて腫瘍組織における特徴的な細胞地区を定義し、治療前後でこれらがどのように変動しているのか解析した。またシングルセルRNAシーケンスを用いて、各免疫細胞におけるサブクラスターを定義し、治療前後でサブクラスターがどのように変動しているか解析した。
  • 腫瘍組織を様々な免疫細胞のマーカータンパクで多重染色し、機械学習によって12個の特徴的な細胞地区を定義した。
  • 治療が有効であった患者は、ICI+放射線治療後に腫瘍における上皮細胞が減少し、免疫細胞の割合が増加した。
  • ICI+放射線治療後には、腫瘍における免疫細胞地区の割合と密度が治療効果と相関した。
  • がん抗原特異的に反応するT細胞は、治療前が一番多く、治療後は単一クローンの増大がみられた。ICI+放射線治療が有効な患者では、上皮細胞の近傍にT細胞が存在し、直接隣接している割合が高かった。
  • 治療が奏効した患者は、治療後の免疫細胞の種類および空間的配置の変化によってResponder 1とResponder 2に分けられた。Responder 1はICI治療後に上皮細胞の密度の減少がみられた。一方で、Responder 2ではICI単剤治療後には上皮細胞の減少がみられなかったが、ICI+放射線治療後に減少がみられた。
  • Responder 1の患者では、治療前から免疫細胞の密度が高かったが、治療後に減少した。Responder 2の患者ではICI+放射線治療後にのみ免疫細胞の増加がみられた。治療が奏効しなかった患者では、治療前の腫瘍における免疫細胞が少なく、治療前後での変化もほとんどみられなかった。
  • Responder 1の患者では治療前からHLAの発現が高かった。一方で、Responder 2 の患者ではICI+放射線治療後にHLAの発現増大がみられた。

まとめ

TNBCにおいて、ICI単剤で有効な患者と放射線治療を併用することで治療効果が得られる患者を同定し、それぞれにおける免疫応答の変化を明らかにした。Responder 1の患者では、腫瘍内の免疫細胞が治療前から多く、これらの免疫細胞はHLAを発現していた。一方でResponder 2の患者では、治療前は腫瘍内の免疫細胞が少ないが、放射線治療を行うことで免疫細胞の割合が増加し、HLAの発現増大もみられた。

柴田淳史・慶應義塾大学薬学部(生物部会・学術WG)

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