(2024年6月更新)
No.279
標的遺伝子発現プロファイリングは髄膜種の臨床転帰を層別化し、放射線治療の効果を予測する
Targeted gene expression profiling predicts meningioma outcomes and radiotherapy responses Nature Medicine 2023 Dec;29(12):3067-3076. doi: 10.1038/s41591-023-02586-z.
この研究のポイント
- 前向き臨床コホート(RTOG0539)を含む3か国12施設で切除された1856例の髄膜種の遺伝子発現と臨床情報を解析し、WHO 2021分類を含む既存の分類システムと独立した予後因子となる遺伝子発現バイオマーカーを同定した。
- 髄膜種切除後の再発予防を目的とした術後放射線治療は、組織学的分類や腫瘍摘出の程度に基づき実施されるが有効であるか議論があり、肉眼的に完全摘出されたWHOグレード2の髄膜種に対する術後放射線治療の意義を問う第III相ランダム化比較試験(NRG-BN003)が進行中である。本研究は遺伝子発現バイオマーカーが術後放射線治療の恩恵を受ける症例を選別し、放射線治療の効果を予測できる可能性を示している。
- 予後因子と効果予測因子の違いを理解する上でも有用な研究である。
- 大規模研究であるものの術後放射線治療例は200例程度と少なく、バイオマーカーの前向き検証が望まれる。
研究の概要
- 単施設の髄膜種173例を解析し、全生存期間(overall survival, OS)と局所無再発期間を3群(低・中間・高リスク)に層別化する34遺伝子からなる遺伝子発現バイオマーカーを発見した。34遺伝子は細胞周期やエピゲノム制御遺伝子、コピー数異常を高頻度に認める染色体領域に位置する遺伝子、免疫関連遺伝子、予後因子として報告された遺伝子等から構成される。
- 3つの検証コホートを解析した。様々な保管状態や多施設の検体、多彩な解析プラットフォームを含むため解析方法の妥当性を1219例で検証した。さらにバイオマーカーの有用性を「後ろ向きコホート866例」と、「前向きコホート(RTOG0539)103例」で検証した(検証コホートは一部重複例あり)。
- 後ろ向きコホートにおいて、OSと局所無再発期間は遺伝子発現に基づく低・中間・高リスク群で層別化され、予後因子としてのバイオマーカーの有用性が検証された。WHO分類を含む9つの組織学的・分子学的髄膜種分類システムを考慮した多変量解析後も、独立した予後のバイオマーカーであった。遺伝子発現バイオマーカーに加えて既存の髄膜種分類システムを併用する場合、WHO 2021分類がOSにおいて追加の予後情報を与える他は、既存の髄膜種分類システムは予後情報を付与しなかった。
- 後ろ向きコホートを、遺伝子発現バイオマーカーと腫瘍摘出の程度で予後良好群(摘出の程度を問わない低リスク、腫瘍が肉眼的に完全摘出された中間リスク)と予後不良群(腫瘍が亜全摘された中間リスク、摘出の程度を問わない高リスク)に分類した。WHOグレード2の予後不良群では、術後経過観察群に比べて術後放射線治療の実施で無再発期間が有意に延長した(ハザード比: 0.54)。一方でWHOグレード2の予後良好群では、術後放射線治療の上乗せ効果は観察できず、遺伝子発現バイオマーカーが術後放射線治療の効果を予測することが示唆された。
- 後ろ向きコホートにおいて臨床的リスク分類(低・中間・高リスク)と遺伝子発現に基づくリスク分類(低・中間・高リスク)を比較した。52%の症例で臨床的リスク分類が変更となった。30%の症例ではRTOG0539で採用された臨床的リスク分類に基づく術後放射線治療の適格規準が変更となるため、術後放射線治療または術後経過観察の方針が変更となり、術後管理を改善できた可能性がある。
- 前向きコホートにおいても、OSと無増悪生存期間は遺伝子発現に基づく低・中間・高リスク群で層別化され、予後因子としてのバイオマーカーの有用性が検証された。
平田 秀成・国立がん研究センター東病院(生物部会・学術WG)