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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.276
STINGは活性酸素種とDNA損傷の制御を通じて細胞死を促進する

T.J. Hayman, M. Baro, T. MacNeil, C. Phoomak, T. N. Aung, W. Cui, K. Leach, R. Iyer, S. Challa, T. Sandoval-Schaefer, B.A. Burtness, D.L. Rimm , J.N. Contessa,
Nat. Commun., 12:2327 (2021)
https://doi.org/10.1038/s41467-021-22572-8

この研究のポイント

STING(Stimulator of Interferon Genes)は小胞体に局在し、病原体感染に応答する自然免疫のアダプタータンパク質であり、病原体由来の細胞質内二本鎖DNAを認識するcGAS(cyclic GMP-AMP synthase)と共同して、炎症性サイトカイン発現を誘発する機能がよく知られている。腫瘍でも、この経路が活性化されると、抗腫瘍免疫応答を増強することからSTINGアゴニストと放射線の併用治療が近年、注目されている。本論文ではSTINGは免疫応答以外の作用としてDNA損傷を引き起こす放射線やシスプラチンなどの処理で腫瘍細胞の活性酸素(ROS)産生系とDNA損傷を制御し、細胞死を修飾していることを示しており、放射線治療標的となる可能性がある。

本論文の概要

  • 1)頭頸部がんFaDu細胞を用いて電離放射線(2Gy×4)処理し、14日目の全ゲノムCRISPR-Cas9スクリーニング(19,050のガイドRNAでスクリーニング)を行ったところ、STINGをコードするTMEM173 gRNAが見いだされ、タンパク質発現レベルでもSTINGの誘導が確認された。
  • 2)FaDu細胞やDetroit562細胞において、STINGノックアウト細胞では野生型と比較してDNA損傷を誘導する放射線やシスプラチンに抵抗性を示したが、EFGR抗体であるセツキシマブでは生存に影響を与えなかった。これはSTINGがDNA損傷処理に対する腫瘍細胞生存の制御因子であることを示している。事実、放射線によるDNA損傷を調べたところ、STINGノックアウト細胞では野生型と比較してDNA損傷は照射後6時間、24時間で有意に低かった。
  • 3)STINGノックアウト細胞を移植したマウスでは野生型と比較し、放射線による腫瘍増殖遅延の抑制を示した。
  • 4)STINGがROSの生成を制御する転写プログラムを制御していること、STINGの欠損がROSホメオスタシスを変化させ、DNA損傷を減少させることで、治療抵抗性を引き起こすことを示した。
  • 5)頭頸部扁平上皮癌患者検体の腫瘍でSTING発現レベルは生存率と正の相関があることが示された。
  • 6)STINGアゴニストSB11285により、in vivoにおいて放射線の腫瘍増殖遅延効果が増強されることが示された。

これらの結果は、今まで知られている細胞質内二本鎖DNA損傷感知におけるSTINGの正統的な免疫機能と異なる別の役割を示しており、STINGが細胞のROSホメオスタシスおよびDNA損傷刺激に対する腫瘍細胞の感受性の制御因子であることが新たに示された。また今回の知見はSTINGアゴニストと放射線との併用療法の根拠となる。

他の論文では

別のグループから、「アルキル化剤処理した乳癌細胞でSTINGは核内に移行し、DNA損傷応答を促進し、DNA修復を増強しDNA切断の蓄積を防ぎ、細胞死を抑制する」という本論文とは逆の腫瘍促進作用がある事も報告されている(Cheradame et al., Oncogene, 40: 6627-6640,2021)。この筆者も、乳癌患者集団全体を見た場合、STING発現レベルは生存率と正の相関を示すとしているが、化学療法を受けている患者では、逆にSTING高発現は再発リスク増加と正の関連である事を見いだしている。この現象について、筆者らは化学療法を受け、染色体不安定性が高い状況では、核STINGの腫瘍促進作用が、今回報告された様な細胞質STINGの抗腫瘍作用より優位に作用すると推測している。従って、がん細胞が事前に制がん剤処理で染色体不安定性が引き起こされることよりSTINGの局在と機能が変化する可能性もあり、今後の更なる検討が必要である。

稲波 修・北海道大学(生物部会・学術WG)

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