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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.271
NOP53 は液-液相分離を起こし,腫瘍の放射線抵抗性を促進する

Shi J, Chen SY, Shen XT, Yin XK, Zhao WW, Bai SM, Feng WX, Feng LL, Qin C, Zheng J, Wang YL, Fan XJ.
NOP53 undergoes liquid-liquid phase separation and promotes tumor radio-resistance.
Cell Death Discov. 2022 Oct 31;8(1):436.
doi: 10.1038/s41420-022-01226-8.

背景

細胞にはミトコンドリアや小胞体のように膜で区画される小器官だけでなく,膜で隔てられない非膜小器官が多数知られる。放射線応答と関連深いと考えられるリボゾーム合成や細胞周期調節やストレス応答に関与する核小体もその1つである。最近,非膜小器官は様々なタンパク質やRNAに富み,これらの因子間の相互作用による液−液相分離現象(LLPS:liquid-liquid phase separation)によって形づくられることが認識されている。具体的には,特定のタンパク質がLLPSによって他のタンパク質から分離した液滴(液体状態での集合体)を形成することで,油と水が分離するような感じで膜を使わずに細胞空間を区画化する新しい機構である。本論文では放射線DNA損傷修復に重要で核小体を構成するNOP53(別名:PICT1)が核小体のLLPSによる液滴形成に関与すること,加えて大腸癌(CRC)の臨床標本について放射線感受性とNOP53との関係性を明らかしている。

注:NOP53はリボゾーム生合成因子やDNA損傷応答因子として知られており,細胞増殖や恒常性維持に重要な機能を持つ核小体タンパク質の一つ。

方法

  1. 蛍光タンパク質を融合させたNOP53タンパク質を用い,試験管及び細胞内でのNOP53の集合体を指標に,LLPSを評価した。液滴様特性は光学的手法や液滴を溶かす1,6-ヘキサンジオール(1,6-HD)処理などにより評価した。
  2. NOP53をノックダウンしたCRC細胞株HCT-8を用い,細胞増殖や放射線感受性を評価するとともに,p53とその標的因子p21の発現を解析した。
  3. 術前化学放射線療法を受けたCRC患者148人の外科切除標本におけるNOP53発現を免疫組織化学で評価するとともに治療効果との関連を分析した。

主な結果

  1. 蛍光タンパク質を融合させたNOP53を細胞に発現させると,NOP53は核小体に局在し,集合体を形成した。液滴様特性の評価により,試験管及び細胞レベルにおいて,NOP53によるLLPSが確認された。NOP53の核小体局在にはNOP53の多価アルギニンに富む直鎖モチーフが関わっていたが,そのモチーフを変異させた場合でも多数のLLPSが観察されたため,NOP53によるLLPSは核小体局在とは無関係であることが示された。
  2. NOP53をノックダウンしたHCT-8細胞は増殖が遅延するととともに放射線感受性が亢進した。NOP53ノックダウン細胞では,放射線照射の有無に関わらずp53のタンパク発現が増加しており,照射後のp21の発現増強がより顕著であったため,NOP53がp53経路を介してCRC細胞の放射線感受性を制御している可能性が示唆された。
  3. CRC患者におけるNOP53の高発現は化学放射線療法の反応不良と相関しており,NOP53の高発現患者は低い患者と比べ生存期間が短かった。さらに,放射線性腸炎組織では非放射線性腸炎組織と比べNOP53の発現が低かった。以上より,腫瘍組織及び正常大腸組織の放射線感受性とNOP53との関連が示唆された。

結論

NOP53が核小体局在とは無関係にLLPSを起こすことが明らかとなった。加えて,NOP53はCRC細胞の放射線抵抗性を制御しており,NOP53が腫瘍に対する放射線増感の潜在的な標的であることが示唆された。

コメント

LLPSを起こすタンパク質による放射線応答制御が示されたが, LLPSを介した生物応答に加え,LLPSによる物理化学的現象と放射線応答制御との関連についても興味のあるところである。

吉野 浩教・弘前大学(生物部会・学術WG)

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