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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.268
膠芽腫においてCD103+制御性T細胞は放射線免疫療法に対する抵抗性の根底となっており、CD8+T細胞活性化を失わせる

van Hooren L, Handgraaf SM, Kloosterman DJ, et al.
CD103+ regulatory T cells underlie resistance to radio-immunotherapy and impair CD8+ T cell activation in glioblastoma.
Nat Cancer. 2023 Apr 20. Online ahead of print.
doi: 10.1038/s43018-023-00547-6.

背景

脳腫瘍であるグリオブラストーマ(GBM) に対しては術後補助療法として放射線治療とテモゾロミド(アルキル化剤)を併用した標準治療が実施されるが、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を併用しても多くのケースで有意な生存の延長は認められない。これまでの研究から、GBMにおいては遺伝子変異量とICIの治療効果に相関がないこと、腫瘍微小環境に浸潤した制御性T細胞(Treg)の数と細胞傷害性T細胞の活性に負の相関があることが分かっている。本研究ではヒトGBMに近似させたモデルマウスを用いて、放射線照射とICI併用時における腫瘍微小環境内の免疫細胞状態を詳細に解析した。

方法

  1. GBM患者に対して外科的切除を行うことで初発腫瘍検体を採取した。その後、同患者に標準治療を行い、再発した腫瘍を切除することで再発腫瘍検体を採取した。これら検体を用いてイメージングマスサイトメトリーを行い、免疫細胞の種類と量的変化を評価した。
  2. がん抑制遺伝子であるInk4aまたはp53が不活性な状態でグリア前駆細胞特異的にPDGF-Bを発現させることで、GBMモデルマウスを作製した。GBMに2Gy X線を1日1回5日間照射した。PD-1阻害剤をX線照射と同時期または5日間の照射後に投与する条件で、腫瘍内に浸潤した免疫細胞の状態変化をフローサイトメトリーにより検討した。
  3. X線照射とPD-1阻害剤併用時のTregおよびCD8陽性T細胞の影響を、抗CD25抗体および抗CD8抗体の投与により検討した。

主な結果

  1. GBM患者の初発腫瘍と比較して、再発腫瘍ではTregやCD8陽性T細胞の浸潤が増加していた。さらにTregはCD8陽性T細胞と相互作用していたことから、再発腫瘍では免疫抑制型の腫瘍微小環境が構築されていることが示唆された。
  2. CD8陽性T細胞は、腫瘍細胞特異的な抗原を認識することで活性化する。GBMにおけるICI抵抗性のメカニズムとして、CD8陽性T細胞が腫瘍特異的抗原を認識できない可能性、またはCD8陽性T細胞の応答を抑制する腫瘍微小環境が形成されている可能性が考えられた。そこで筆者らは、異物であるニワトリ由来のオボアルブミンをGBMに発現させたモデルマウスを用いて解析を行った。その結果、オボアルブミン由来抗原を標的とするCD8陽性T細胞が腫瘍内に浸潤、活性化および増殖しているにも関わらず、X線とICIを併用してもマウスの生存に変化は認められなかった。つまり、腫瘍特異的な抗原が提示されてCD8陽性T細胞が反応できる状況であっても、免疫抑制的な腫瘍微小環境が形成されているため、ICIの治療効果が抑制されてしまうことが示唆された。
  3. GBMモデルマウスにおいてX線照射とICI投与を同時期に行う条件では生存の延長は認められなかった。一方で5回のX線照射後にICIを投与する条件では、わずかな生存の延長が認められた。同時期投与では照射後投与に比べて早い段階でTregがGBM内に浸潤していた。細胞膜分子のパターンから、浸潤したTregの特徴を分類した結果、X線照射とICIの併用により、CD103陽性を示すTregが腫瘍内で増加していることが明らかとなった。CD103陽性Tregは、CD8陽性T細胞の活性化を抑制した一方で、CD25陽性Tregは抑制しなかった。CD103陽性Tregを含むT細胞を抗CD25抗体により枯渇させた結果、X線照射とICI投与の併用による生存期間の延長が認められ、この延長は抗CD8抗体で抑制されたことから、CD8陽性T細胞に依存していると考えられた。

結論

放射線治療とICIの併用により、腫瘍微小環境におけるCD103陽性Tregが増加し、CD8陽性T細胞の抗腫瘍活性を抑制していることが示唆された。そのため、CD103陽性Tregの除去や活性阻害が、GBMにおける併用療法の治療効果改善に繋がると考えられた。

コメント

近年、CD8陽性T細胞が減少しTregが支配的となる腫瘍微小環境が、ICI治療後の増悪に関与することが報告されている (Wakiyama et al., Can. Imm. Res, 10: 1386, 2022) 。今回はGBMが研究対象であったが、ICIの治療効果とTregに関する研究は今後も重要なトピックスになると思われる。

柴田淳史・慶應義塾大学(生物部会・学術WG)

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