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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

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No.267
染色体異数性が高い非小細胞肺癌は放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤の同時併用で治療反応性が向上する

Highly aneuploid non-small cell lung cancer shows enhanced responsiveness to concurrent radiation and immune checkpoint blockade

Nature Cancer 3(12):1498-1512, 2022 December
doi: 10.1038/s43018-022-00467-x

背景

500を超える臨床試験で放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤(ICI, immune checkpoint inhibitor)併用を検討しているが、大半は有効性を示せていない。本研究の目的は、非小細胞肺癌(NSCLC, non-small cell lung cancer)を対象とした前向き試験の臨床試料へ免疫ゲノム解析を行い、放射線治療とICI投与のタイミングが腫瘍免疫に及ぼす影響や、併用療法の効果予測バイオマーカーを明らかにすることである。

方法

  • IV期NSCLC(同時性オリゴ転移)の初回治療として、最大4ヵ所の解剖学的部位(転移個数ではない)に存在する遠隔転移巣に対し、「高線量を病巣へ集中投与する定位照射(SBRT, stereotactic body radiotherapy)+ICI(イピリムマブ+ニボルマブ)同時併用」または「SBRT→ICI逐次療法」の安全性と有効性を評価するランダム化第I/II相試験の第I相登録例(37例の結果 J Thorac Oncol. 17:130-140, 2022)を対象とした。
  • SBRT前 ± SBRT後7日以内(逐次群はICI導入前)に生検した照射転移巣から抽出したDNAに対し全エクソンシーケンスを施行できた22例(同時併用群:10例、逐次群:12例)は、体細胞変異、コピー数異常、染色体異数性(※1)等を評価した。

    (※1) 染色体異数性 Aneuploidy
    正常細胞の染色体は父親・母親由来各1本の計2コピーずつあるが、がん細胞では増減する異数性を高頻度に認める。本研究は「染色体腕のコピー数異常」に基づき異数性スコアを算出後、22例の中央値を基準とし、異数性の高低を評価している。

  • 15例(同時併用群:7例、逐次群:8例)は、前述の転移巣に対しRNAシーケンスによる遺伝子発現解析を行い、免疫細胞の割合やT細胞受容体レパトア等の免疫微小環境を推定した。12例は転移巣の多重免疫染色も行い、免疫微小環境を評価した。

結果

  • SBRT単独後(逐次群)、局所の細胞傷害性T細胞や獲得免疫シグネチャーが減少した。対照的に、SBRT+ICI同時併用では免疫経路が活性化し、多くの新たなT細胞受容体クローンが出現した。
  • SBRT後、同時併用群は逐次群に比べ、Tumor mutation burden(TMB)や染色体異数性、腫瘍純度等が減少し、局所の強い抗腫瘍効果(変異クローンの淘汰)が示唆された。
  • 既知のICI効果予測因子(TMB、PD-L1発現等)は、両群とも生存期間に関連しなかった。
  • 染色体異数性が高い腫瘍は、免疫逃避によりICIの効果が不良と報告がある。本研究もSBRT前の腫瘍組織は異数性が高い程、免疫経路が不活性化していた。
  • 逐次群では、染色体異数性が高いNSCLCは無増悪生存・全生存期間が有意に不良だった。
  • 一方、同時併用群では染色体異数性は生存期間に関連しなかった。高異数性NSCLCでは、同時併用は照射転移巣や非照射病変に良好な治療効果をもたらし、生存向上への寄与が示唆された。
  • 別コホート(転移性NSCLC:58例)でも、高異数性NSCLCにおいて放射線+ICI同時併用はICI単独に比べ有意に全生存期間が良好であった。低異数性NSCLCでは治療群による生存期間の違いはなかった。

結論

SBRT+ICI同時併用は逐次療法に比べ、染色体異数性が高いNSCLCで免疫応答を誘導し、がん細胞を排除することが免疫ゲノム解析により明らかとなった。染色体異数性は、放射線治療とICIを用いた治療効果を予測する潜在的バイオマーカーであると示唆される。

コメント

放射線治療の適応拡大が期待される「オリゴ転移(※2)」症例を対象とし、「精密かつ重厚な遺伝子解析」と「前向き臨床データ」から成る良質な試料解析研究である。放射線治療例のゲノム異常と腫瘍免疫の関連を示した点は興味深い。

(※2) オリゴ転移
少数の転移を伴う病態。局所進行期と全身転移の中間的病態として、根治治療が有用な一群を内包すると考えられている。

一方、「SBRT単独は局所の腫瘍免疫を抑制するか?」や「染色体異数性が高い腫瘍でSBRT+ICI同時併用と逐次療法の臨床転帰や免疫応答に違いを生じる詳細な機序は何か?」という疑問も残り、解決は今後の課題である。同研究グループは、染色体異数性が多がん種でICI後の生存を予測することも報告しており(Nature Genetics 54:1782-1785, 2022)、参照されたい。

平田 秀成・国立がん研究センター東病院(生物部会・学術WG)

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