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No.145
237例のIII期非小細胞肺がんに対する化学療法と照射線量の全生存率(OS)への影響

The effect of radiation dose and chemotherapy on overall survival in 237 patients with Stage III non-small-cell lung cancer.

Wang L, Correa CR, Zhao L, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys, 73(5):1383-1390, 2009

目的

外科的に手術不能なIII期非小細胞肺がん(NSCLC)に対する照射線量、化学療法、及びそれらの相互作用に関して検討した。

対象及び方法

237例のNSCLC症例について評価した。経過観察期間の中央値は69ヶ月。患者の治療法の内訳は、放射線治療(RT)のみ:106例、順次併用:69例、同時併用:62例であった。エンドポイントは全生存率(OS)とした。照射線量は30-102.9Gy(中央値60Gy)、BEDは39-124.5Gy(中央値:72Gy)であった。

結果

全体のOSは12.6ヶ月、2YSは22.4%、5YSは10.0%であった。(コホートスタディ)Coxの多変量解析では、カルノフスキーPS(p=0.020)、5%以上の体重減少(p=0.017)、化療の有無、順次vs同時(p<0.001)、BED(p<0.001)が顕著にOSに影響した。治療法別では、RTのみ、順次化法順次併用及び同・同時併用のOSは夫々7.4ヶ月、14.9ヶ月及び15.8ヶ月であり又5YSは夫々3.3%、7.5%及び19.4%であった(p<0.001)。線量の増加による生存率の改善は化療に左右されないことが判明した。

結論

III期非小細胞肺がんのOSに関して照射線量と化療は互いに影響されず、両者の併用に関しては同時併用が最も良好な結果を得た。照射線量と化療の間に因果関係は認められなかった。

コメント

照射(線量)と化療のOS,5YSに対する影響を多角的に解析した論文です。内容自体は比較的平凡で特に目新しいことを言って入る訳ではありませんが、かつて同様のテーマの論文があったかどうか、不勉強な為良く判りません。著者は中国人で上海のFudan(復旦)大学所属ですが、症例はミシガン大学と同救世軍保健センターのものです。恐らく米国留学時のデータをまとめたもの(若しくは留学時に執筆し、帰国後publishされた。)と考えます。

1992-2004年の12年間でこの症例数(237症例→年間約20症例)ですから、図抜けて多いと言う訳ではありません。そういった意味では、中国本土やインドからしばしば発せられる、とにかく数で勝負!(信憑性は二の次)という論文とは一線を画する、という感じです。ただ正直な印象としては、これだけ長期(12年間)に亘り、しかも複数の施設の症例ということになれば治療機器、モダリティ、治療の内容等もかなりの変遷があるだろうな、という感じは拭えません。それだけばらつきのあるデータを一括りにして良いものかどうか、という感じですが、実はそれがこのレポート作成の1つの狙いだったのかもしれません。

しかしながら本文を良く読みますと、例えば照射線量が30-102.9Gyとあり、30Gyの方は in 3Gy fraction とあるので、どう考えてもそりゃ骨メタだろ?という感じですし、102.9Gy in 2.0-2.1Gy fraction の方は、一回の治療でかけたとしたら、一体どこに照射したのかな?という感じです。(RTの方法は通常の3D-CRTという記載があります。)因みに237症例の内訳は根治治療169例、姑息治療68例という記載がありますが、データとしてはいっしょくたにまとめてあり、評価可能症例のみについてまとめた、という形ではありません。

又化学療法に関しては、逐次併用69例では1)カルボプラチン(CBDCA)+パクリタキセル(TXL):24例2)シスプラチン(CDDP)+ビノレルビン(VNR):19例3)CDDP+エトポシド(VP-16):6例4)その他:20例同時併用62例では1)CBDCA + VP-16:21例2) CDDP + VP-16:18例3) CBDCA + TXL:17例4) その他:6例 というばらつき具合で、これだけ雑多な治療から何かしらの因果関係を求めようとすること自体些か無理があるのでは?という印象さえ受けます。ついでに申し上げますと、同時併用の場合は、通常初めから根治を目指す場合が多く、逐次の時はそうでないことが多い訳ですから、同時併用の方が優れた治療成績を示すという結果はある程度予測され得た結果である、と考えます。

いずれにしてもこのような多種多様な、というかとりとめの無いデータを解析してきちんと帳尻を合わせる(グラフが綺麗すぎる!?)テクニックに、さすが中国4000年の論文作成技術は侮れない、と強く感じさせられた論文ではありました。


(北原 規)

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