No. 228
米国における放射線腫瘍学の需要と供給:2015年から2025年の予測の更新
Supply and Demand for Radiation Oncology in the United States: Updated Projections for 2015 to 2025.
Hubert Y. Pan, Bruce G. Haffty, et al.
Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 2016 Nov. 96(3): 493-500. Epub 2016 Mar 5.
doi: 10.1016/j.ijrobp.2016.02.064
目的
以前の調査では放射線治療の需要は2010年から2020年までの供給より10倍の速さが見込まれていた.今回,この不均衡が継続するかどうかを判断し,事前予測の正確性を評価するためにこれらの予測を2015年から2025年に更新した.
対象と方法
2015年から2025年までの放射線療法の需要は,SEERデータによって提示された現在の放射線治療適応率と,米国国勢調査局が提供する人口予測とを組み合わせることによって推定した.放射線腫瘍医の供給は労働人口統計とASTRO提供のFTE状況,現在の研修医規模,そして米国疾病管理センターの生命表での予想生存率によって予測した.
結果
2015年から2025年にかけて,初回治療において放射線治療を受ける年間総患者数は,49万人から58万人に19%増加すると予想された.卒後研修医規模が200人と仮定すると,FTE放射線腫瘍医数は3,903人から4,965人に27%増加すると予想された.以前の調査での予測と比較すると,2020年の新規の放射線治療の需要は24,000症例減少した(相対的な減少は4%であった).この減少は,がん治療における放射線治療の適応総数の減少(前回の予測での全がん罹患患者の28%から新しい予測での26%)に起因した.これとは対照的に,2020年に新たに予測された放射線腫瘍医の供給は,研修医規模の増加に起因して,2020年の前回予測に比べ275FTE増加した(相対的に7%増であった).
結論
放射線腫瘍医の供給は,2015年から2025年までの放射線治療の需要よりも急速に成長すると予想される.これが適切な是正であるのか,それとも過剰な能力になるのかを判断するためには,さらなる研究が必要である.
コメント
米国での放射線治療の需要に関するデータ更新の報告である.予測では2015年から2025年にかけて,放射線治療患者数が19%増加(49万人から58万人)するとしているが,以前の予測より増加率は減少している(4%減)との報告である.特に前立腺癌に関して,前回の予想より今回の予測で約3万人の減少となっている.一方で放射線腫瘍医数は2015年から2025年にかけて27%増加するとの予測となっており,これは以前の予測より増加率が高くなっている.この放射線治療の需要(患者数の予測増加率の下方修正)と放射線腫瘍医の供給(FTEの予測増加率の上方修正)のバランスが適切かどうかは本調査では断定できていない.特に使用しているSEERのデータからは,がん治療における初回治療時の放射線治療の適応率のみが提示されているため,再発例や転移例などへの適応率が考慮されておらず,放射線治療の適応率が過小評価されている可能性がある.また,放射線腫瘍医は前回予測より増加率が高くなっているが,高精度放射線治療の患者数増加などにより,1症例に対する負担が増えてきていることもあり,十分な増加率であるかは断言できていない.この需要と供給が適切であるかはさらなる調査が必要であると結論付けている.日本において2016年1月から施行された全国がん登録ではSEERと同様に初回治療時の放射線治療の選択のみを収集しており,本論文と同様に日本でも放射線治療の適応率が過小評価される可能性があるため,本論文を参考に日本における放射線治療の需要と供給を考えていく必要がある.
PMID: 27209499
(大阪大学大学院 沼崎 穂高)