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No.97
2005年におけるがん治療・予防・スクリーニングに関する臨床的進歩─ASCOからの報告

Clinical Cancer Advances 2005: Major Research Advances in Cancer Treatment, Prevention, and Screening-A Report From the American Society of Clinical Oncology

Roy S. Herbst, Dean F. Bajorin, Harry Bleiberg ,et al
Journal of CLlinical Oncology 24:190-205, 2006

21名のASCO専門家により、過去1年間(2004年11月から2005年10月まで)に学会誌に掲載もしくは主要な学術会議で発表された臨床データの中からがんを理解する道筋を変更しあるいはがん医療に大きな影響を及ぼした報告に基づきこのレポートが作成されています。それによると、乳腺、肺、結腸がんの標準医療としての補充療法や乳腺、結腸、肺、腎、頭頚部、リンパ腫などさまざまながんに対する標的治療薬の発展において主な進歩が認められています。
また生存中のがん罹患者の健康問題について新たな課題が表出してきたとされています。
特に長期生存している小児がん患者の抱える健康障害の発生率と重篤度(健康な兄弟姉妹と比較して5倍もの中等度もしくは重篤な問題を抱えている)に注目が集まっており、成人のがん生存者においても長期にわたる支援の必要性が特記されています。

以下に個別の特に重要な事項を示します。

  • Trastuzumabを標準化療に併用するとHER-2陽性(全乳がん中25-30%で過剰発現している)早期乳がんの再発を半減させ、がん死を3分の1に減少させる。
  • 早期肺がん(NSCLC)の術後化療は手術単独と比較して再発率を40%軽減し、5年生存を著しく向上させる。
  • 早期結腸がんの術後にoxaliplatin、5-FU、leucovorin併用化療を追加すると再発を21-24%軽減する。
  • 進行期肺がん(NSCLC)や進行期結腸がんに対する化療にBevacizumabを併用すると顕著に生存が改善する。
  • びまん性高悪性度リンパ腫に対する化療にRituximabを併用すると寛解期間を延長し生存を改善する。ろ胞性リンパ腫にtositumomabを用いると寛解期間を延長させる。
  • 頭頚部がん再燃時の化療にCetuximabを併用すると延命した。標準治療にCetuximabを併用すると喉頭温存に寄与した。
  • 早期臨床試験の結果、腎細胞がんの転移病変に対し、新規標的治療薬(AG-013736、Sunitinib、Sorafenib、Bevacizumab、Erlotinibなど)が効果を示した。

その他の事項として

  • HPV感染を防止するワクチン(Cervarix、Gardasil)
  • MDSに対する新規治療法(lenalidomide)
  • 胃がんに対する術前化療の有用性
  • GBMに対する初めての有効な薬剤(Temozolomide)
  • 若年者にメラノーマや他の皮膚がんが増加していること
  • 進行期前立腺がんに対するワクチン(APC8015)の有用性
  • をあげられています。さらに放射線関連の事項として
  • 若年女性ではディジタルマンモグラフィーが通常のマンモグラフィーより精度が高いこと
  • 大腸内視鏡はバーチャル内視鏡やバリウム注腸より2倍精度が高いこと
  • 若年者の髄芽腫では放射線治療が不必要であること(照射は生存率の向上に寄与せずIQ低下を招いた)

などが記載されています。

コメント

米国はバイオメディカルモデルを国策として強力に推進しその帰結としてこのような報告を打ち出してきているという印象を持ちます。しかし本文を詳細に読むと、早期がんでの補充療法としての薬剤使用では本来さほど高くない失敗率を多少改善したことにより、一方再発がんでは元来悪い生存期間を多少改善したことにより、数字のレトリックを駆使しインパクトを大きく見せているようにも思われます。事実は事実として受け止める必要がありますが、問題はこれらのデータを過大評価しわが国において「がんはなんでもかんでも薬剤だ」という風潮が蔓延する恐れがないかということです。多くのがん臨床シーンにおいて放射線が卓越した局所制御力をもつことを実感している者として、危機感を掻き立てられる報告でした。


(青木 幸昌)

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