No.219
早期乳癌の長期的な局所有害事象に放射線治療と化学療法の順序がおよぼす影響:無作為抽出試験15年間の結果
Impact of Sequencing Radiation Therapy and Chemotherapy on Long-Term Local Toxicity for Early Breast Cancer: Results of a Randomized Study at 15-Year Follow-Up
Pinnaro P, Giordano C, Farneti A, et al.
Int J Radiation Oncol Biol Phys, 95(4): 1201-1209, 2016
目的
乳房温存手術後の同時あるいは逐次化学放射線療法が長期の晩発性局所有害事象におよぼす影響を比較する。
対象と方法
1997年から2002年までの間に、乳房温存手術と腋窩郭清術を施行し、CMF(サイクロフォスファミド、メソトレキセート、5-フルオロウラシル)療法を受けた18歳から75歳の女性乳癌患者が、同時あるいは逐次放射線療法群に無作為に割り付けられた。
放射線療法は全乳房に対して接線照射で50Gy、20分割、4週間で実施され、引き続き電子線ブーストが行われた。2014年3月から9月にかけて生存中の患者に暫定的にコンタクトをとり調査が行われた。病気が進行・再発した、あるいは更なる乳房手術が追加された患者は除外された。局所の有害事象(線維化、毛細血管拡張、乳房萎縮やひきつれ)が照射と化学療法の順序が伏せられてスコア化された。そして、照射と化学療法の順序がおよぼす影響につき、患者、治療法、腫瘍に関連する変量を補正した後に定められた検討項目についてロジスティック回帰分析で検討された。治療から解析までの期間は12.0年から17.8年で中間値は15.7年であった。
結果
206例が登録され、154例(74.8%)が適格例であった。そのうち43例(27.9%)が調査への参加を拒否、4例(2.6%)が追跡不能、5例(3.2%)が治療データ不十分であり、最終的な患者の解析数は102例となった。グレード4の有害事象は観察されなかった。またグレード3の有害事象は、いずれの群でも8%未満と低値であったので、グレード2, 3の有害事象をまとめて調査対象とした。放射線治療の順序(同時あるいは逐次)は、National Cancer InstituteのCTCAE(Common Terminology Criteria for AdverseEvents)(オッズ比:4.05, 95%信頼限界:1.34-12.2, p値:0.013) でもSOMA(Subjective, Objective, Management and Analytic) スケール(オッズ比:3.75,95%信頼限界:1.19-11.79, p値:0.018)でもグレード2, 3の線維化の独立した因子であり、SOMAスケールではグレード2,3の乳房萎縮あるいはひきつれに関しても同様に有意な因子であった(オッズ比:3.87, 95%信頼限界:1.42-10.56, p値:0.008)。毛細血管拡張に関しては両群間に明らかな差は見られなかった。
結論
長期経過観察の結果、同時化学放射線療法は乳房の線維化とひきつれに有害な影響を与え、グレード2, 3の有害事象に関してオッズ比で約4の増加となった。
コメント
乳癌治療において放射線療法と抗癌化学療法の同時併用と逐次併用の違いが長期の皮膚障害におよぼす影響について検討した論文である。筆者らは同じ症例群を用いた別の論文で、急性期の有害事象に関しては2群間に有意な差はなかったとしているが、同時に局所再発率、遠隔再発率、生存率にも明らかな差はないとして同時併用の有用性を否定している。尚、2015年版の乳癌診療ガイドラインにおいては放射線療法と抗癌化学療法の同時併用を推奨グレードC2として推奨していない。本論分の結果は、2007年に報告されたARCOSEINトライアルの結果とともにこれを支持する結果と思われる。
PMID: 27209504
Evidence Level: 1b
(高知市病院企業団立高知医療センター・西岡 明人)