JASTRO

公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

ホーム > JASTRO 日本放射線腫瘍学会(医療関係者向け) > 学会誌・刊行物 > Journal Club > 早期乳癌における再発と15年生存率に対する化学療法とホルモン療法の効果

No.80
早期乳癌における再発と15年生存率に対する化学療法とホルモン療法の効果

Effects of chemotherapy and hormonal therapy for early breast cancer on recurrence and 15-year survival: an overview of the randomized trials

Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group (EBCTCG)
Lancet 365:1687-1717, 2005

背景

早期乳がんのランダム試験の5年毎の見直し(1985-2000)で、さまざまな全身療法の乳がんの5年および10年での再発率や生存率に対する効果が報告されてきたが、今回10年および15年の再発率・生存率への効果を報告する。

方法

1995年に開始された194の全身化学療法・ホルモン療法に関するランダム試験のメタアナリシスを行った。多くの試験で CMF(cyclophosphamide, methotrexate, fluorouracil)、アントラサイクリン中心のFAC(fluorouracil, doxorubicin, cyclophosphamide)やFEC(fluorouracil, epirybicin, cyclophosphamide) 、tamoxifenや卵巣機能抑制療法が行われていた。taxan、trastuzumab、raloxifen、aromatase inhibitorは今回は含めていない。

結果

約6ヶ月にわたるアントラサイクリン中心の多剤化学療法(FACやFEC)で、乳がんの死亡率は、診断時50歳以下の女性で38%、50-69歳で20%減少する。これはtamoxifenを使用するか否か、ホルモン受容体の有無、リンパ節転移の状況や腫瘍の性質にあまり依存しない。CMFに比べて明らかに有意に改善する(再発率2p=0.0001、死亡率2p<0.00001)。エストロゲン受容体陽性の症例に限ると、5年間のtamoxifenの併用で乳癌死は31%減少する。これは化学療法の併用や年齢、プロゲステロン受容体の有無や他の腫瘍の性質にはあまり依存しない。5年間の併用の方が、1-2年間の併用に比べ有意に良好である(再発率2p<0.00001、死亡率2p=0.01)。エストロゲン受容体陽性の腫瘍では、乳がんによる死亡割合は0-4年の期間と、5-14年の期間で同等である、5年間のtamoxifen併用によってその死亡率は同じように減少するので、累積した死亡率減少効果は5年目に比べ15年目は2倍以上である。

これらの結果は6個のメタアナリシスの統合である。アントラサイクリン中心の化学療法 vs. 化学療法なし(8000例)。CMF中心の化学療法 vs. 化学療法なし(14000例)。アントラサイクリン中心の化学療法 vs. CMF中心の化学療法(14000例)。5年間のtamoxifen併用 vs. ホルモン療法なし(15000例)。1-2年間のtamoxifen併用 vs. ホルモン療法なし(33000例)。5年間のtamoxifen併用 vs. 1-2年間のtamoxifenの併用(18000例)。最後に卵巣のablationやsuppression(8000例)でも乳癌死は減少したが、それは他の全身療法が行われていない状況下のみに有意であった。

中年女性でエストロゲン受容体陽性の症例(最も多いタイプである)では6ヶ月のアントラサイクリン中心の多剤化学療法(FACやFEC)と5年間のtamoxifen併用で15年間の乳癌死は半減する。なぜなら、約6ヶ月にわたるアントラサイクリン中心の多剤化学療法(FACやFEC)で、乳がんの死亡率は、診断時50歳以下の女性で38%、50-69歳で20%減少し、さらに5年間のtamoxifenの併用で乳癌死は31%減少するので、最終的に乳がん死亡率の減少は50歳以下で57%、50-69歳で45%となるからである(実際のトライアルでは両方の治療が適応可能なコンプライアンスの高い症例ではさらなる改善がある)。粗生存率も同じように改善すると考えられる。なぜなら、これらの治療は他の色々な原因による死亡に対して大きな影響を持たないと考えられるからである。

解釈

1980年に試験され、その後臨床で広く用いられてきた薬剤併用療法は、これまでは5年再発率を減少させることが判明していたが、5年乳がん死亡率への寄与は明らかでなかった。今回15年乳がん死亡率を減少させていることが判明した。新しい薬剤使用やこれまでの薬剤の使用法の改良により、長期生存率の更なる改善が期待できる。


(茂松 直之)

top