No.82
肝癌患者におけるリンパ節転移の放射線療法の役割の検討:125人の患者での予後因子の後顧的分析
Consideration of role of radiotherapy for lymph node metastases in patientswith HCC: retrospective analysis for prognostic factors from 125 patients
Zeng ZC, Tang ZY, Fan J, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 63(4):1067-1076, 2005
目的
腹部のリンパ節転移を伴った肝癌患者の放射線療法の役割を過去7年に我々の機関で評価する。
対象と方法
我々は、1998と2004に外部照射で治療を受けた/受けなかった肝癌領域リンパ節転移の患者を125人認めた。これらの患者では AFR,rGT、肝内腫瘍サイズと数の状態、肝内腫瘍に対するこれまでの治療、転移リンパ節の場所、数とサイズ、腫瘍血栓とChild-Pugh分類法が調べられた。125人うち、62人は局所リンパ節への外部照射を受けた(EBRT群)。腫瘍線量は40-60Gy/daily 2.0Gy/5回・週であった。同じ期間の入院患者から選ばれたEBRTを受けなかった患者は63人であった(非EBRT群)。これらにおいて生存率と臨床症状とCTで観察された腫瘍反応を検討した。生存率評価にはカプラン-マイヤー法、予後予測にはCox回帰モデルを用いた。
結果
EBRTの後のpartial response rate、complete responses rateはそれぞれ59.7%の37.1%であった。MSTは、EBRT群で9.4ヵ月(95%ci: 5.8-13.0)と非EBRT群(95%ci: 2.7-3.9)3.3ヵ月(p < 0.001)であった。全例での多変量解析(MVA)では、肝内一次腫瘍数、腫瘍血栓、肝内腫瘍の治療の有無、Child-Pughスコアが、予後不良に関係した。EBRT群のMVAでは、肝臓からのリンパ節転移巣までの距離と肝内の主な腫瘍径は、生存期間の短かさに関係していた。リンパ節に関連した合併症による死亡の頻度はEBRT群でより低かった。
結論
肝癌リンパ節転移巣は放射線感受性が高い。2Gy 25回の外部照射は、全身状態のよい肝癌リンパ節転移患者において、効果的な姑息治療であり、粗生存期間を延長するだろう。
コメント
この報告は肝癌の放射線治療のメリットの証明を盛んに展開しているZeng ZCの論文群のひとつ。肝癌の放射線治療といっても、対象となる病巣は、肝内腫瘍、腫瘍栓(門脈・静脈)、局所リンパ節転移、遠隔転移(副腎やリンパ節)、骨転移に大別できる。彼の論文群はその多くを網羅する。過去肝癌放射線治療に関する多くの論文を見ると、30Gy程度から治療効果があがり始め、60Gy程度までの間に線量依存性が認められる。リンパ節転移について肝門部、腹腔、傍大動脈領域への系統だった進展モデルに基づいた進行度と放射線治療の結果を科学的に分析したのはZengが最初である。彼は、進展度の高いリンパ節転移については予後を考えた場合は30Gyでもよいだろうとコメントしている。彼が彗星のごとくこの世界に現れた背景が、肝癌の治療を至上の使命として外科の限界を突破するため肝臓外科からこの世界に遣わされた外科医であるということに目的のはっきりした使命感というものの重要性を感じる。
(岸 和史)