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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.203
乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術後の放射線療法の10年再発率および20年乳癌死亡率に対する効果:22件の無作為化試験における8135名の女性患者に対する個別患者データのメタアナリシス

Effect of radiotherapy after mastectomy and axillary surgery on 10-year recurrence and 20-year breast cancer mortality: meta-analysis of individual patient data for 8,135 women in 22 randomised trials

EBCTCG (Early Breast Cancer Trialists, Collaborative Group)
Lancet 2014, 383: 2127-2135

背景

リンパ節転移陽性乳癌女性全体では、乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術後の放射線療法により再発と乳癌死亡の両方のリスクの低下がこれまでのメタアナリシスで示されてきた。しかし、リンパ節転移個数が1~3個であった乳癌女性に対する乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術後の放射線療法の有効性は不明であった。

目的

リンパ節転移個数が1~3個であった乳癌女性に対する乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術後の放射線療法の有効性を評価した。

対象

1964-1986年に、乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術後に、胸壁と局所リンパ節に放射線治療を施行、非施行で比較した22臨床試験において、乳癌女性8135名の個別データに基くメタアナリシスを行った。

方法

解析では、臨床試験、個々の患者の追跡年数、参加時の年齢および腋窩リンパ節転移個数により層別化した。

結果

腋窩リンパ節郭清術でリンパ節転移が1~3個であった乳癌女性1314名の解析では、術後の放射線治療により、局所再発率(2p<0.00001)および全生存率(RR 0.68, 95% CI 0.57~0.82, 2p=0.00006), 乳癌死亡率(RR 0.80, 95% CI 0.67~0.95, 2p=0.01)が、ともに低下した。
これらのうち、全身化学療法または内分泌療法が行われた1133名に限定した解析でも、術後放射線治療は、局所再発率(2p<0.00001)および全生存率(RR 0.67, 95% CI 0.55~0.82, 2p=0.00009)、乳癌死亡率(RR 0.78, 95% CI 0.64~0.94,2p=0.01) を、ともに低下させた。

結論

全身療法が行われていた場合でも、乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術後の放射線療法は、リンパ節転移が1~3個の乳癌女性の再発率と乳癌死亡率を有意に低下させた。

現在では、多くの国で再発リスクが低くなっており、したがって、再発率・死亡率低下の数値は小さくなっているが、より効果的な放射線治療法の導入によって、低下の割合(proportional gains)は大きくなっている可能性がある。

コメント

2001年の米国NIHのコンセンサスでは、腋窩リンパ節転移4個以上の症例では、術後の胸壁・リンパ節領域照射により、生存率が改善し、有害事象を考慮しても利益が上回るが、リンパ節転移が1~3個の症例では、有効性が不明確であり、無作為化試験による検証の必要性が指摘されていた。本論文により、リンパ節転移が1~3個の症例でも局所再発率および遠隔臓器を含む再発率を低下させるだけではなく、乳癌死亡率をも低下させることが示され、この問題はほぼ解決したといえる。

1990年代以前には、術後照射は、局所再発率は低下させるが心臓死が多いとのことで、明らかな生存率の向上に至らなかった。現在では、放射線治療機器や技術は格段に進歩しており、正常組織の放射線障害の低減も期待され、近年の乳房切除術後照射は長期生存者の比率をさらに向上させていくものと思われる。

Evidence level 1a

PMID: 24656685

(兵庫県立加古川医療センター・小川恭弘)

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