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No.174
乳房温存術後の放射線治療が10年後再発と15年後原病死に及ぼす影響: 17の RCT(10801例)のメタアナリシス

Effect of radiotherapy after breast-conserving surgery on 10-year recurrence and 15-year breast cancer death: meta-analysis of individual patient data for 10,801 women in 17 randomised trials.

Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group (EBCTCG), Darby S, McGale P, Correa C, Taylor C, Arriagada R, Clarke M, Cutter D, Davies C, Ewertz M,Godwin J, Gray R, Pierce L, Whelan T, Wang Y, Peto R.

Lancet. 2011 Nov 12;378(9804):1707-16.

背景

乳房温存手術後に照射を加えると再発や乳癌死を減少させるが、集団によって効果が異なるかもしれない。そこで予後因子別に照射による減少効果の程度を分析し、10年目の再発リスク減少の絶対差と15年目の乳癌死亡率低下の絶対差との関係を検討する。

方法

乳房温存手術後の照射と非照射を検討した17のランダム化比較試験における10801人の個々のデータを用いてメタアナリシスを行った。このうち8337人は病理学的にリンパ節転移が陰性(pN0)か陽性(pN+)確認されていた。

結果

局所-領域リンパ節再発あるいは遠隔再発を含む初再発は照射により全体として35.0%から19.3%(絶対差15.7%、95%信頼区間13.7-17.7, 2p<0.00001)に減少し、15年目の乳癌死は25.2%から17.2%(絶対差3.8%、95%信頼区間1.6-6.0, 2p<0.00005)に減少した。
pN0(n=7287人)においては再発は31.0%から15.6%(絶対差15.4%、95%信頼区間13.2-17.6, 2p<0.00001)に、乳癌死は20.5%から17.2%(絶対差3.3%、95%信頼区間0.8-5.8, 2p<0.005)に減少した。
これらの患者では年齢、組織学的異型度、エストロゲン受容体、タモキシフェン使用、あるいは切除範囲により照射による再発リスク減少の絶対差は異なるので、これらの因子を組み合わせて10年目の再発リスク減少の絶対差が20%以上期待できる高度減少群、10-19%までの中程度減少群、20%未満の軽度減少群に分類した。
するとこれらの群における15年目の乳癌死亡率減少の絶対差はそれぞれ7.8%(95%信頼区間3.1-12.5)、1.1%(95%信頼区間-2.0-4.2)、0.1%(95%信頼区間-7.5-7.7)であった(有意ではなかったが傾向はみられた 2p=0.03)。
それよりも数が少ないpN+群(1050人)では照射により10年目の再発リスクは63.7%から42.5%(絶対差21.2%、95%信頼区間14.5-27.9, 2p<0.00001)に減少し、15年目の乳癌死は51.3%から42.8%(絶対差8.5%、95%信頼区間1.8-15.2, 2p<0.01)に減少した。

結局4例の10年間における再発を防ぐことが出来れば15年目までの乳癌死を1例防ぐことができる。この4:1の関係はpN0群の3群やpN+群においても大きくは変わらず存在する。

結論

乳房温存手術後の照射は再発を半減し、乳癌による死亡を1/6だけ減少させる。この関係は予後因子別にみたどの群においてもほとんど変わらない。一方、照射により得られるリスク減少の程度は患者群により大きく異なり、治療方針決定の際に予測しうる。

コメント

5年ごとに報告されているEBCTCGの乳癌放射線治療に関するメタアナリシスであり、2005年は乳房切除術と乳房温存手術後の照射の効果についてであったが、今回は乳房温存療法に限局して分析されている。
前回も4:1の比率、すなわち4例の5年以内の局所再発を防げば15年目の乳癌死を1例防ぐことができると報告されていたが、今回も比率は同じだが、内容は少し異なっている。すなち4例の10年以内の再発(局所-領域リンパ節+遠隔)を防ぐと15年以内の乳癌死を1例防ぐというものである。
2005年時は5年時の局所-領域再発をみていたが、今回は10年以内の遠隔再発を含むすべての再発を対象としている。
理由として放射線療法は術後の生存率を改善するということが分かっているので当然、遠隔再発も防ぐだろうという論理である。
乳房温存手術後の照射は遠隔再発を含む再発を半減し、その結果として乳癌による死亡も減少することがどの患者群においても同じ強さでみられることが明らかとなった。
しかしこれはリスクの低い群(たとえばT1, ER陽性,高齢者)には非照射もオプションになり得る可能性も示唆している。
また心臓への障害や二次発がんも気になるところだが、乳癌死以外の死亡の増加は照射群でやや多いもののリスク比は1.09倍で有意ではなかったことも患者さんにすれば安心材料となるであろう。


PMID: 22019144

Level of Evidence Ia


(聖路加国際病院 関口 建次)

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