No.142
膠芽腫に対する放射線治療とテモゾロミドの同時併用療法および補助療法 vs. 放射線治療単独の生存への寄与:EORTC-NCIC試験の5年での解析
Effects of radiotherapy with concomitant and adjuvant temozolomide versus radiotherapy alone on survival in glioblastoma in a randomised phase III study: 5-year analysis of the EORTC-NCIC trial.
Stupp R, Hegi ME, Mason WP, et al.
Lancet Oncol, published online March 9, 2009. :-,
EORTC-NCICによる膠芽腫(術後)に対する放射線治療+同時併用・補助テモダール(RT+TMZ)vs. 放射線治療単独(RT)のランダム化比較試験(Stupp R, et al. NEJM2005;352:987)の長期観察。
方法
EORTC 26981-22981/NCIC CE3では573例(15ヶ国、85施設)がRT+TMZとRTの2群に割り付けられていた(WHOのPS、手術の程度、施設で層別化)。年齢中央値は56歳。手術はcompleteが40%,partialが45%, biopsyのみが17%。照射は3DCRTでGTV+2-3cmで60Gy/30回。TMZは照射期間中土日も含めて連日75mg/m2。照射後は150-200mg/m2の5日連続を4週おきに6回予定。補助療法部分のTMZ投与は78%で開始され、回数の中央値は3回。6サイクル完遂した症例は47%。primary endpointは全生存率。
secondary endpointは無増悪生存率、安全性、QOL(QOLは別途報告済みTaphoorn MJ, et al. Lancet Oncol 2005;6:937)。
結果
投与線量が処方線量の90%以下の症例はRT+TMZで5%、RTで8%。同時併用部分のTMZ投与期間は40-45日で、投与量が90%以下の症例は8%。補助療法部分のTMZ投与は78%で開始され、回数の中央値は3回。6サイクル完遂した症例は47%。今回は(生存例の)経過観察中央値61ヶ月での解析。死亡数は254/287 vs. 278/286、生存期間中央値(MST)14.6ヶ月vs. 12.1ヶ月、全生存率は2年27.2% vs. 10.9%、3年16% vs. 4.4%、5年9.8% vs. 1.9%、死亡のHR=0.63(p<0.0001)。TEM併用の利益はRPAのclass によらず認められた。増悪後の生存期間は両群とも6.2ヶ月。
ランダム化後の病理中央検査が85%に行われ、その93%で膠芽腫が確認された。生存解析は膠芽腫が病理中央検査で確認された症例のみで行っても同様の結果であった。また、組織量の十分に得られた206例に対して後方視的にmethyl-guanine methyl transferase (MGMT)遺伝子プロモータのメチル化が検索され、年齢、手術の程度、RPA classと比較して最も有力な予後因子であることが示された。
結論
TMZ併用群ではごく少数ながら長期生存例があり、経過観察を延ばしても照射単独と比較して全生存率の優位性は維持されている。
コメント
2005年のNEJMに掲載された報告(経過観察28ヶ月)ではRT+TMZ vs. RTで死亡数は219/287 vs. 261/286、MSTは14.6ヶ月vs. 12.1ヶ月、2年全生存率27% vs. 10%、死亡のHR=0.63(p<0.001)。2年以内の死亡例が多いため経過観察を延長してもMSTに変化はありません。
結論は論文内容からまとめたもので、冒頭のinterpretationとは若干異なります。Interpretationでは"Benefit of adjuvant temozolomide ..."とありますが、adjuvant部分の影響(効果)でこのような結果になったかどうかは不明です。Stuppらによるはじめの報告(=28ヶ月)でも"median follow up"としていますが、今回は61ヶ月です。2年で全体の80%は死亡しているので、"median follow up of surviving pats."といった記載をしてほしいところです。2年無増悪生存が10.7%で、増悪後のMSTはわずか6.2ヶ月であるにもかかわらず5年で9.8%が実際に生存しています。通常、無増悪生存の差以上に全生存に差が出ることは滅多にないことです。再発(増悪)の診断基準がなくTMZ群の増悪例は真の増悪でない症例も含むoverestimationの可能性(Brandes AA, et al. JCO 2008;26:192)についても論じています。
ちなみにWickら(Neuro-Oncol 2008;10:1019)によれば、照射野から離れた部位の再発は20%でTMZ併用の有無で(脳内の)再発様式に違いはないようです。MGMT遺伝子プロモータのメチル化と予後の関連については、メチル化のある場合はアルキル化剤への反応が向上し(Hegi ME, et al.JCO 2008;26:4189)、RT+TMZとRTとの生存率の差もより大きくなるようです。ただしこの臨床試験ではあくまで後方視的なサブセット解析です。日常臨床でTMZが併用されるようになって数年たちます。膠芽腫の長期生存者はどの程度経験されましたでしょうか。
(宇野 隆)