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No.169
局所進行頭頸部癌治療における放射線治療のプロトコール遵守とその質が治療成績に与える重大な影響: TROG02.02の結果

Critical Impact of Radiotherapy Protocol Compliance and Quality in the Treatment of Advanced Head and Neck Cancer: Results From TROG 02.02

Lester J. Peters, Brian O'Sullivan, Jordi Giralt, et al.
Journal of Clinical Oncology. 28(18): 2996-3001, 2010

目的

局所進行頭頸部癌に対する化学放射線療法でcisplatin+tirapazamine(TPZ)同時併用の有効性を評価する大規模第III相試験において,放射線治療の質が治療成績に与えた影響について報告する.

対象と方法

 本試験では,Quality Assurance Review Center(QARC)により,治療開始後早期の放射線治療計画のレビューとその結果のフィードバックを行った.
治療終了後には,Trial Management Committee(TMC)が全ての治療計画および放射線治療記録をレビューし,プロトコール遵守について評価した.プロトコール不遵守例では,予想される腫瘍制御の低下との関連を見るために再度のレビューを行った.
またプロトコール不遵守に影響する因子の検討や,治療成績とプロトコール遵守ならびに放射線治療の質との関連についての解析も行った.

結果

 TMCのレビューでは対象となった治療計画の25.4%がプロトコール不遵守であったが,QARCの忠告に従い計画の変更がなされたものは全て遵守であった.
不遵守例の再レビューでは,不遵守例の47%(全体の12%)で腫瘍制御への悪影響が予想された.
主な逸脱は,原発巣の亜部位やTまたはNステージ(N陽性の場合)とは関連がなかったが,施設の登録数と強く関連していた(5例未満 29.8%,20例以上 5.4%,P < 0.001).
また,60 Gy以上の照射を受けた患者のうち重大な逸脱があった群(n=87)は,治療開始からプロトコール遵守であった群(n=502)と比較して明らかに治療成績が不良で,2年生存 50% vs. 70%,ハザード比(HR)1.99 (P < 0.001),2年局所領域無増悪 54% vs. 78%,HR 2.37 (P < 0.001)であった.

結論

 今回の結果は,放射線治療の質が頭頸部癌における化学放射線療法の成績に大きな影響を与えることを示している.
また,少数例しか治療していない施設の参加が放射線治療の質の問題の主たる原因である.

コメント

 低酸素細胞に選択的に細胞毒性を示すTPZは,前臨床モデルでは放射線感受性やcisplatinの作用を高めることが知られている.International Trans-Tasman Radiation Oncology(TROG)グループでは,2002年から2005年にかけて局所進行頭頸部癌861例を対象とし,同時併用化学放射線療法におけるcisplatin単剤とcisplatin+TPZ併用とを比較する国際共同ランダム化第Ⅲ相試験(HeadSTART試験)を行った.両群ともに70 Gy/35frの根治的放射線治療が行われ,TPZ併用による生存率の上乗せ効果が認められないとの結果であった.

 しかし本試験では,最終的に4分の1の症例で放射線治療のプロトコール不遵守が認められた.さらにプロコール遵守例と重大な逸脱例の間には2年生存率で20%もの差があり,これは期待されたTPZの上乗せ効果の2倍もの数字であった.著者らは,逸脱の多い放射線治療によりTPZの潜在的効果が見られなくなってしまった可能性を指摘している.また,放射線治療の質を確保するためには,試験への参加を経験が豊富で症例登録の期待できる施設に限定すべきであり,疑似症例を用いた参加施設の事前承認制が望ましいとしている.

 プロトコールの不遵守が治療成績に悪影響を及ぼすことはこれまでもいくつか報告されているが,本試験は局所進行頭頸部癌において実際にどのくらいの損失となるのかを初めて示すとともに,薬剤の上乗せ効果に比べ,質の高い放射線治療を行うことのインパクトがより大きいことを示している.今後,日本でも臨床試験に参加する機会が増えていくなかで,放射線治療の質を担保することの重要性が改めて示された結果であった.

(大分県立病院・佐貫 直子、神奈川県立がんセンター・石倉 聡)

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