No.119
乳房 Paget 病:米国における頻度、臨床的所見、治療の変遷
Paget disease of the breast: changing patterns of incidence, clinical presentation, and treatment in the U.S.
Chen CY, Sun LM, Anderson BO.
Cancer 107(7):1448-1458, 2006
背景
・Paget 病は乳がんのまれな亜型、米国では1973-1987年の間は増加
・乳頭部潰瘍性病変が特徴
・以下の3型あり:1)浸潤癌の合併 2)DCIS の合併 3)いずれも合併なし。
目的
1988年以降の、米国での Paget 病の頻度、病型、生化学マーカー、手術法、治療成績の変化を調べる。
対象
1988-2002年に、Surveillance, Epidemiology, and End Results Program(SEER)に登録された Paget 1738例(同時期に登録された浸潤癌は155965例、DCIS は 21426例)
結果
・ 乳がんは上記の期間に増加したが、Paget は約 45% 減少(特に浸潤癌あるいはDCIS を合併したものが減少:Paget 単独発生は 13%、絶対数はあまり変化せず)。
・ Paget 合併の浸潤癌は、ER 陰性、PgR 陰性、組織高グレードのものが多。
・ 病変は 60% で乳頭周辺にあるが、外科的に治療された 1642例中 293例(18%)のみが中心部部分切除(lumpectomy)された。
・ 温存療法の成績は、乳房切除と差がなかった:15年生存率は、浸潤癌の合併のない Paget で 92% vs 94%、合併のある Paget で87% vs 60%(各 lumpectomy vs mastectomy)。
考察
・ Paget の発生には epidermatropic theory(Paget cell は乳癌から発生)と intraepidermal transformation theory(Paget cellは表皮近傍から独自に発生)とのふたつの仮説があるが、いずれをも支持する結果となった。
・ 浸潤癌の合併のある Paget が減少したのは、早期発見によるのだろう。
・ 独立した予後因子は、母地の浸潤癌の大きさとリンパ節転移のみであり、手術法は生存率に無関係。
・ 同じ条件でも、通常の乳癌に比して Paget は大半で乳房切除が選択されてしまう。
結論
母地に浸潤癌のある Paget 病は 1988年以降減少。治療成績は乳房切除と温存療法とで差はない。
コメント
Paget 病には珍しい、症例数の多い報告なので全体の理解に役立つ。国内でも温存療法がなされることは少ない印象だが積極的に支持する根拠となりうる。
一方、これだけ大規模な報告であるのに、部分切除の症例になされた放射線治療の割合も内容も記載がないのは残念だ。
(岡嶋 馨)