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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.148
放射線治療を受ける ICD装着患者のケア

Implanted cardiac defibrillator care in radiation oncology patient population

Gelblum DY, and Amols H.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 73(5):1525-1531, 2009

目的

埋め込み式除細動器(Implanted cardiac defibrillator;ICD)は急性心筋梗塞および心不全患者の突然死の頻度を減少させることが2つのスタディーで証明されている。その結果を受けICD挿入患者は増加してきており,ICD挿入患者の放射線治療を行う機会が増加することも予想される。

ペースメーカー挿入患者の放射線治療のガイドラインはAAPMが1994年に出しているが,ICD挿入患者の放射線治療についてのガイドラインはない。一方,ヨーロッパからはICDの耐容線量についてin vivoで検討し,ICDの線量を2Gyから5Gy以下にするよう勧告している報告もある。

ICDに対する放射線治療の影響は十分にはわかっていないが,3つの要素が考えられる。放射線自体の影響,リニアックからの高周波の干渉,およびリニアックや放射線からの現在はよくわかっていない干渉である。Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterでのICD挿入患者の放射線治療症例について検討した。

方法と対象

ICD挿入患者に対するケアを見直すことになった最初の患者は前立腺癌に対して86.4Gy/48Frの放射線療法を15MVの光子線を使った症例で,循環器科医のチェックによると,ICDが出荷時のプログラムに戻っていたことがわかった。この症例のICDメモリーによると1回目の放射線治療の際にすでにこの変化が起こっていたことがわかった。そこで,2005年6月から2007年12月までのICD挿入患者の放射線治療症例を検討した。

結果

12972人の放射線治療患者のうち33例のICD挿入患者がいた。22例が根治症例で,11症例が緩和照射である。2例でICD挿入部位の入れかえを行った。ICDの線量は最大299cGyであった。

この研究時期に1例のプログラムがリセットされた症例を経験した。この症例は直腸癌の症例で,4回照射の時点でリセットが起こっていたが,患者が気づかなかったために5回の放射線治療が追加されていた。この症例も15Mvのエネルギーが使われており,以後6MVのエネルギーに変更して,50.4Gy/28Frまでの照射を完遂した。

また,ICDの線量が2Gy以上であった3例にはICDの異常はみられなかった。このことはICDへの線量だけがICDの異常をきたす因子でないことを示している。

結論

高エネルギー放射線からの中性子線のコンタミネーションの影響によってICDのリセットが起こる可能性がある。ICD挿入患者を治療する際は10MV未満のエネルギーでの治療を行い,できる限りICDから照射野を離し,循環器医とそれぞれの症例ごとにケア方法を検討する必要がある。

コメント

ペースメーカーやICD挿入患者は増加しており,各施設はそれぞれ十分な対応およびマニュアルの作成などを行う必要がある。今回のこのICDについての報告は放射線自体の影響以外にICDに異常をきたす要因があり得ることを示している。放射線の線量を治療前にチェックすることはもちろん重要であるが,それ以外に患者ケアの必要性を示している。

(副島 俊典)

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