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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.184
限局期ホジキンリンパ腫に対する ABVD 単独治療と放射線治療を主体とした治療との比較

ABVD Alone versus Radiation-Based Therapy in Limited-Stage Hodgkin's Lymphoma.

Meyer RM, Gospodarowics MK, Connors JM, et al.

N Engl J Med 2012; , 366: 399-408

背景

化学療法と放射線治療の併用は巨大腫瘍を伴わないStage IA,IIAのホジキンリンパ腫の制御に90%の患者で有効であるが、遅発性の治療関連死亡にも関与している。化学療法単独による治療は遅発性の死亡を減らすことで生存期間の改善が見込める可能性がある。

方法

405例の未治療で巨大腫瘍を伴わないStage IA、IIAのホジキンリンパ腫患者をABVD単独療法群とABVD併用・非併用での亜全リンパ節領域照射(35 Gy/20fr)にランダム化した。ABVD単独療法群では低リスク群も中リスク群も4-6サイクルのABVDを施行した。放射線治療群は低リスク群には亜全リンパ節領域照射のみ行い、中リスク群には2サイクルのABVD後に亜全リンパ節領域照射を施行した。Primary end pointは12年全生存割合とした。

結果

経過観察期間中央値は11.3年であった。12年での全生存割合はABVD単独療法群では94%、亜全リンパ節領域照射群では87%であった(ハザード比は0.50, 95%信頼区間は0.25-0.99; p=0.04)。無増悪割合は各々87%と92%であった(ハザード比は1.91, 95%信頼区間は0.99-3.69; p=0.05)、無イベント生存割合は各々85%と80%であった(ハザード比は0.88, 95%信頼区間は0.54-1.43; p=0.60)。ABVD単独療法群では6例の原病死と早期の治療関連死があり、6例が他病死であった。対して放射線治療群では4例の原病死と早期の治療関連死があり、20例が他病死であった。

結論

ホジキンリンパ腫患者において、ABVD単独療法は亜全リンパ節領域照射を含む治療と比較して他病死の割合が低いために高い全生存割合を示した。

コメント

このカナダの臨床試験の対象患者の現在の標準治療は、ABVD 2-4サイクル後に20-30GyのIFRT (involved-field radiation therapy)である。この試験が開始されたときは亜全リンパ節領域照射という大きな照射野で治療が行われており、その晩期有害事象(二次発癌や心血管障害など)が問題視されていた。この試験は途中でIFRTの有効性を示す報告が発表されたことで、この大きな照射野を用いた臨床試験の続行は不可と判断され、予定登録数(450例)の集積前に登録終了となった。この試験の結果は現在の治療方針に直接的に影響を与えるものではないが、照射野が大きいほど、晩期有害事象の発生割合が高くなるということが示唆される。

目的と結論だけをみると、放射線治療の有害性が強調された試験結果とも解釈され得るものであるため我々放射線治療医としては注意をする必要がある。なお、GermanHodgkin Study GroupのHD10 trialでも、線量が減少して照射範囲も狭くなったにもかかわらず、二次癌や心疾患による死亡は観察されている。Stage I、IIのホジキンリンパ腫の治療については将来的にはどのような対象群に放射線治療を選択するか、IFRTからINRT (involved-nodal radiation therapy)になるのか、またFDG-PETの反応(interim PET)により治療を変更するといった動きが注目される領域である。

(国立がん研究センター中央病院 稲葉 浩二/伊藤 芳紀)

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