No.158
局所進行頭頸部癌に対するセツキシマブ±放射線治療のランダム化比較試験: 5年生存率のデータおよびセツキシマブによる発疹と生存期間との関係
Radiotherapy plus cetuximab for locoregionally advanced head and neck cancer; 5-year survival data from a phase 3 randomized trial, and relation between cetuximab-induced rash and survival
Bonner JA, Harari PM, Giralt J, et al.
Lancet Oncology 11:21-28, 2010
背景
局所進行頭頸部扁平上皮癌において放射線治療単独に比較しセツキシマブ併用群で3年生存率が向上することを既に報告したが(N Engl J Med 354:567-578, 2006)、5年生存率のデータを報告し、挫瘡様発疹と生存期間との関係について検討する。
方法
対象は遠隔転移の無い臨床病期III-IVの中咽頭・下咽頭・喉頭扁平上皮癌。
放射線治療のスケジュールは次の3通りを選択可能。
(1)1日1回照射、2 Gy/fr、総線量70 Gy/35fr、
(2)1日2回照射、1.2Gy/fr、総線量72-76.8 Gy、
(3)同時追加照射 1.8 Gy/fr×30fr + 最後の12日間に2回目のboost 1.5 Gy/fr×12fr、総線量72Gy。
頸部リンパ節予防域の線量は50-54 Gy、予定頸部リンパ節郭清の場合は転移リンパ節に60 Gy。
セツキシマブは放射線治療開始1週間前に初回量400mg/m2投与し、放射線治療期間中に週1回250mg/m2を7回投与。
層別因子は、KPS、Tstage、Nstage、線量分割法であった。
Primary endpointは局所制御期間、 secondary endpointは生存期間であり、ITT解析を用いた。治療後はじめの2年間は4ヵ月毎、その後は半年毎に理学的所見と画像診断にて経過観察した。
結果
セツキシマブ併用群211人、放射線治療単独群213人で、更新した生存期間中央値はそれぞれ49ヵ月(95%CI 32.8-69.5)と29.3ヵ月(20.6-41.4) (ハザード比 0.73, 95%CI 0.56-0.95; p=0.018)、5年生存率はそれぞれ45.6%と36.4%で併用群が有意に優れていた。
Grade 2以上の挫瘡様発疹が生じた患者(127人)はgrade 1以下の患者(81人)に比べ有意に生存期間が優れていた(68.8ヵ月 vs. 25.6ヵ月; ハザード比 0.49, 0.34-0.72; p=0.002)。
結論
局所進行頭頸部扁平上皮癌に対しセツキシマブ併用は放射線治療単独と比較して5年生存率でも有意に優れていることが示され、この対象に対する重要な治療選択肢の一つであることを確認した。セツキシマブ併用群でgrade 2以上の挫瘡様発疹を生じた患者はgrade 1以下の患者よりも有意に生存期間の延長を認めた。
コメント
この臨床試験の前回の報告によって米国のNCCNガイドラインにセツキシマブ併用放射線治療が局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する治療選択肢の一つとして記載されるようになった。セツキシマブ併用では皮膚炎が増えるが粘膜炎、嚥下障害については放射線治療単独と同様の傾向であり、細胞傷害性の抗がん剤同時併用のような強い有害反応は生じない。従って皮疹の出る患者にはとても効果的な治療と考えられる。現在、わが国では頭頸部癌に対するセツキシマブの承認申請を目指して、セツキシマブ併用放射線治療の臨床試験が進行中である。効果予測に関して、近年、大腸癌でのセツキシマブに関するk-ras遺伝子変異や、非小細胞肺癌でのゲフィチニブやエルロチニブに関するEGFR遺伝子変異と治療効果との関連性が示され、治療開始前の遺伝子検査で効果予測が可能となってきており、今後のバイオマーカーによる効果予測の研究も期待される。また、最近登録が終了したRTOG 0522はシスプラチン同時併用化学放射線療法±セツキシマブのランダム化比較試験であり、化学放射線療法にセツキシマブの上乗せ効果があるのかどうかについても大変興味深く、結果が待たれる。
(国立がんセンター中央病院 村上 直也)