No.205
Ⅲ期非小細胞肺癌に対するパクリタキセル、カルボプラチン同時併用放射線治療:標準線量 対 高線量、セツキシマブ追加の有無によるランダム化2×2第3 相要因試験
Standard-dose versus high-dose conformal radiotherapy with concurrent and consolidation carboplatin plus paclitaxel with or without cetuximab for patients with stage IIIA or IIIB non-small-cell lung cancer (RTOG 0617): a randomised, two-by-two factorial phase 3 study
Bradley JD, Paulus R, Komaki R, et al.
Lancet Oncol 2015; 16: 187-99
背景
RTOG 7301の結果、StageⅢ非小細胞肺癌の標準的放射線量は60-63 Gy(1.8-2 Gy/fr)に確立され、この30年間変わっていない。
局所進行非小細胞肺がんにおいては、画像誘導や3D-CRT, IMRTなどにより照射体積の減少が可能となり、Phase I, II studyで線量増加の有効性と安全性が確立された。RTOG 9410ではパクリタキセル(PAC)及びカルボプラチン(CBDCA)同時併用において、最大74Gyが安全に照射され生存期間中央値(MST)は、60Gy群の17.1カ月に対し、およそ24カ月が得られた。
今回の臨床試験(RTOG0617)の目的は74 Gyの60 Gyに対する優位性及びセツキシマブ併用によるCRTへの上乗せ効果の有無を評価するものである。
対象と方法
オープンラベルのランダム化two-by-two factorial studyを米国及びカナダの185施設で施行した。適格基準は18歳以上の切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌で、PS0-1, 良好な肺機能を有し、鎖骨上窩や対側肺門リンパ節転移の無い症例。患者は60Gy (標準線量) ,74Gy(高線量)、60Gy+cetuximab, 74Gy+cetuximabの4群のいずれかに割り当てられた。すべての患者で抗癌剤(PAC:45mg/m2 + CBDCA: AUC2 /週1)が同時併用された。照射終了2週間後に地固めの抗癌剤治療(PAC:200mg/m2 +CBDCA: AUC6 /3週毎)を追加した。セツキシマブの投与は、day1に400mg、その後は週1で250mg/m2を治療期間中(放射線開始~地固め抗癌剤終了)継続した。
照射野は予防的領域を含まず、線量はPTVのD95に対して2Gy/frを処方した。GTVは原発巣とリンパ節転移(短径1cm以上あるいはPETでSUV>3)ITVは呼吸性移動を考慮したGTVの範囲、CTV=ITV+0.5~1cm, PTV=CTV+0.5~1.5cmとした。主要評価項目は全生存期間(OS)で、副次的評価項目は無増悪生存期間(PFS)と局所制御率。又照射方法、PS、ステージングにおけるPET使用の有無、及び組織型について層別化を行った。
MSTの改善を17.1ヵ月から24カ月へと見込んで、α=0.0125(片側) 検出力80%として登録症例数を決定した。
治療効果についてはHaybittle and Petの基準、非有用性についてはFreidlin and Kornの基準にしたがって中間解析をおこなった。
2011年6月に基準に抵触したため、その後は高線量群の登録を終了し、標準線量群のみ登録を継続した。
結果
2007年11月~2011年11月に544人が登録され495名が解析の対象となった。
異なる線量群間での比較に関しては、追跡期間中央値は22.9ヵ月で、MSTは標準線量群が28.7ヵ月(95%CI 24.1-36.9) 高線量群が20.3ヵ月(17.7-25.0)で、ハザード比1.38(1.09-1.76; p=0.004)と有意差を認め、高線量群が不良であった。
セツキシマブの有無に関しては、追跡期間中央値が21.3ヵ月で、セツキシマブ群が25.0ヵ月(20.2-30.5)CRTのみが24ヵ月(19.8-28.6)で、ハザード比1.07(0.84-1.35;p=0.29)で有意差を認めなかった。
G3以上の有害事象の発生については、異なる放射線量間で有意差はなかったが、セツキシマブの有無に関しては86%対70%(p<0.0001)で、有意にセツキシマブ使用群で多かった。
治療関連死は高線量群(標準線量: 3人対 高線量: 8人)、セツキシマブ使用群(セツキシマブ無し: 5人 対 有:10人)で多かった。 重篤な肺機能障害は治療群間で差を認めなかったが、重篤な食道炎は高線量群(21%対7%)に多かった。
多変量解析でOSと関連が見られた項目は、照射線量、食道炎の最大グレード、PTV体積、及び心臓のV5とV30であった。
コンプライアンスと照射方法(3D-CRT対IMRT)は共に関連性は認められなかった。EGFRの発現程度とセツキシマブの関連では、EGFRの発現が低い患者ではセツキシマブを使用した方が、生存期間が不良(MST: 19.5ヵ月 対 29.6ヵ月)であった。
一方EGFRの過剰発現が見られた患者においては、セツキシマブを使用した方が良好(MST:42ヵ月 対 21.2ヵ月)であった。
考察
今回の調査結果の複合的要因として、治療関連死は高線量群の方が多かった。抗癌剤治療の完遂が困難で、治療計画のコンプライアンス不良が多かったことなどが原因として考えられた。そのため治療計画のコンプライアンスを満たした患者のみで分析したが、それでも標準線量の方が、OSが良好であった。そのためコンプライアンス以外の部分に原因のある事が予測された。その点に関して、心臓への線量が関与する可能性がある。
心臓の線量制約はガイドラインには示唆したものの、コンプライアンスには含めなかった。多変量解析では、心臓のV5とV30が共に生存に対する予後因子であった。
また、セツキシマブの有用性が示されなかった原因は、今回の試験ではEGFRのステータスで選択をしていなかったためと考えている。
Retrospectiveな検討で、検体は十分ではなかったが、EGFRの過剰発現がみられた群でセツキシマブの使用が有用であることが示唆され、EGFRの発現が少なかった群では負の影響が見られた。
結論
化学療法同時併用の放射線治療では、依然60Gyが標準である。
コメント
ASCOやASTROで中間解析が報告され、高線量照射群のOSが悪かったため登録中止になった非常にインパクトの強い試験です。心臓に対する線量の影響が考察されていますが、この辺がもう少し解明されれば今後の治療計画にも反映できるのではないかと思われます。
またセツキシマブの使用についてはEGFRステータスを調べて使用する事により生存期間延長も示唆されており、今後期待してもよいのかもしれません。
PMID: 25601342
Evidence level: Ib
(東海大学 小松 哲也・北原 規)