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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.144
組織エクスパンダーあるいはインプラント挿入胸壁への術後照射-有害事象に違いはあるのか?

Postmastectomy chest wall radiation to a temporary tissue expander or permanent breast implant--is there a difference in complication rates?

Anderson PR, Freedman G, Nicolaou N, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 74(1):81-85, 2009

目的

非定型的乳房切除術(MRM)後で一時的な組織エクスパンダー(TTE)か永久的なインプラント(PI)挿入術のいずれかを受け、術後胸壁照射(RT)を施行した乳癌患者における有害事象と整容性の見込みを評価すること。著者らの過去の報告では、TTE/PI群における5年の軽微な有害事象の率は14%、筋皮弁群では39%であったが、過去においてはインプラント患者の有害事象は多いとの報告がある。比較的多数例を長期に経過観察することで、その真偽を確かめ、有害事象に影響を及ぼす因子を検討する。

方法と対象

1987年10月から2006年1月までの乳房再建後照射の74例について検討した。通常TTEはPIの準備として行われる。TTEに照射した例が62例、PIに照射した例が12例で、TTEの20例、PIの5例がIMRTであった。年齢の中央値は46歳(30から71歳)、再建から照射までの期間の中央値は6ヶ月であった。胸壁線量は50Gyで、76%の患者が鎖骨上窩への照射も同時に受けていた。全例で皮膚線量を増加させるためのボーラスが隔日に使用された。86%で化学療法が、59%で内分泌療法が行われていた。経過観察期間の中央値は48ヶ月(9から200ヶ月)であった。プライマリーエンドポイントは再建胸壁の有害事象とした。

結果

5年の全体の有害事象率は27%で、TTE群24%とPI群48%で有意差はなかった(p=0.48)。再手術を要する有害事象も、TTE群4.8%とPI群0%で有意差がなかった(p=0.21)。PI群では再建乳房が失った例はなく、TTE群では3例が再建乳房を失った。TTE群の90%、PI群の80%で整容性は、良好か極めて良好であった(p=0.22)。多変量回帰モデルでは、再建法は有害事象に有意な影響を及ぼさなかった。有害事象に影響を及ぼす患者、治療因子は単変量/多変量解析ともに認められなかった。

結論

乳房再建後の胸壁照射においても、問題となる有害事象の率は低かった。TTE、PI両群で軽微な、また再手術を要する有害事象に有意差はなかった。TTEとPIいずれにおいても、再建術後胸壁照射は全ての適応患者に許容できる治療の選択肢であるとみなされるべきである。

コメント

乳房切除後の組織エクスパンダーあるいはインプラント挿入胸壁に対する放射線療法を依頼されることが多くなっている気がします。患者さんのご希望に従い照射をせざるを得ない場合も、有害事象が常に気にかかっていました。過去においては、68%、53%、51%などと言う有害事象率が報告されており、再建乳房の喪失も37%、24%などと報告されています。乳癌診療ガイドラインで再建胸壁への放射線療法は安全と言えないのはそうした報告があるからです。しかし、最近の報告で有害事象の率が減っているのは、再建術の進歩、放射線療法の精密さの向上に依るのでしょうか。自験例での有害事象も通常の胸壁照射と差がないように感じています。安全とは言えないまでも、患者さんを不安に陥れるような有害事象率の説明をする必要はなくなってきているのかもしれません。


(唐澤 久美子)

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