The 35th Annual Meeting of the Japanese Society for Radiation Oncology

日本放射線腫瘍学会第35回学術大会

受賞記念講演のご案内

Gold Medal

白𡈽博樹

白𡈽 博樹

(北海道大学大学院医学研究院 医理工学グローバルセンター)

このたび、日本放射線腫瘍学会のゴールドメダル受賞の知らせを頂きました。誠に光栄に思いますとともに、錚錚たる歴代受賞者の中に自分の名前を見るのは感無量です。
まず、放射線科の門を叩いた約40年前に、大きな目標となった故入江五朗教授、育てていただいた辻井博彦先生をはじめとする当時の北海道大学放射線治療科の先輩に、心から感謝申し上げます。また、大学の壁を越えてご指導を頂いた全国の先輩諸氏・名誉会員の先生方、共に高精度放射線治療を推進した全国の同志、優れた研究・診療・教育を行いつつ私の数々の弱点を補ってくれた教室員だった方々に、厚くお礼申し上げます。

日本放射線腫瘍学会は、発足当時から、発表会場の中や総会では議論を戦わせながらも、一度方向性が決まれば、小異を捨ててお互いをレスペクトし、一致団結して放射線治療の発展のために奮闘する、すばらしい集団でした。本学会は、患者への標準治療を明示しつつも、旧弊に囚われず、我が国発の新規技術や研究成果を尊重して育てきました。高精度X線治療や粒子線治療では、先進医療申請や多施設共同試験を支援し、保険収載に繋げる段階では、放射線治療品質管理体制の整備を盛り込み、患者本位の医療を推進してきました。私は、個人として反省すべきことは多々ありますが、このような本学会の本質的で歴史的ながん医療への貢献に参加できたことを誇りに思い、折に触れ、懐かしく思い返しております。

とはいえ、新しい海へ出るには、新しい水夫が必要です。日本放射線腫瘍学会が常に前を向き、諸先輩の築かれた港から船出し、日本の放射線治療をさらに推進することを心から祈っております。

海外名誉会員記念講演

Chang W. Song

Chang W. Song

(Department of Radiation Oncology, University of Minnesota, USA)

阿部賞

原田浩

原田 浩

(京都大学大学院生命科学研究科 がん細胞生物学)

栄えある阿部賞を受賞させて頂けますことを大変ありがたく、また光栄に存じます。選出して下さいました学会理事ならびに賞等推薦委員会の先生方、またご推薦下さいました永田靖先生に厚く御礼申し上げます。「本稿の内容は自由…」とのことでしたので、私が放射線腫瘍生物学研究(特に低酸素研究)を始めた経緯を、これまで私を導いて下さった方々への感謝とともにご紹介させて頂きたいと思います。

私が低酸素研究の世界に入りましたのは、低酸素細胞放射線増感剤を開発していたポーラ医薬品研究所に所属してすぐ、上司の馬島敏郎ユニット長から「腫瘍内低酸素領域を可視化・定量せよ」というテーマを頂いたのがきっかけです。新人の私に「研究手法も研究場所も自分で探しなさい」と自由を与えて下さいました。この課題へのアプローチを模索する過程で、当時京都大学におられた柴田徹先生と平岡眞寛先生の論文を目にし、その内容に強く惹かれると同時に、私の課題解決に不可欠だと感じました。そこで、癌治療増感研究会の会場で平岡先生に「はじめまして! 先生の研究室で研究をさせて下さい」とアポなしで直談判しました(まさに若気の至り)。平岡先生はそんな無礼者を快く受け入れて下さり、京都での低酸素研究がスタートしました。京大放射線治療科には阿部光幸先生・小野公二先生・平岡眞寛先生・芝本雄太先生・笹井啓資先生・大矢夏生先生・・・が培われた低酸素研究の基盤がありましたので、これに饗場弘二先生から学生時代に学んだ分子生物学のエッセンスを加えることで低酸素の可視化を達成しました。このタイミングで平岡先生にお取り計らい頂き、企業から京大放射線治療科へ籍を移し、低酸素研究を継続する機会に恵まれました。そして、がん細胞が低酸素環境への適応システムを流用して放射線抵抗性を獲得することを捉え、その分子基盤を解明して参りました。現在はこの研究を更に深化させるとともに、低酸素を指標にした個別化医療の実現を目指して、溝脇尚志先生・吉村通央先生・諏訪達也先生との共同研究で腫瘍低酸素をモニターする血中バイオマーカーの開発を進めています。これらの研究は、紙面の制限からお名前を挙げさせて頂くことが出来なかった多くの先生によるご指導と、研究室のメンバーの努力が無ければ進められませんでした。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

阿部先生のお名前を冠した賞を受賞させて頂けますことは、京大放射線治療科に育てて頂いた私にとって望外の喜びです。この受賞を励みに、若い研究者を指導しながら、マイルストーンとなる仕事を残せるように努力し、JASTROの活性化に少しでも貢献できればと考えております。今後ともご指導ご鞭撻のほど、何卒宜しくお願い申し上げます。この度は誠にありがとうございました。

梅垣賞

諏訪達也

諏訪 達也

(オックスフォード大学 MRC 放射線腫瘍学研究所(免疫放射線生物学)研究員)

この度は、伝統ある梅垣賞にご採択頂き、誠に有難うございます。大変光栄に思うと同時に、身の引き締まる思いです。

固形腫瘍内の低酸素領域は放射線抵抗性の一因で、その量は放射線治療後の再発率や予後と相関します。腫瘍内低酸素分画の量は症例毎に異なるため、個別化放射線治療の実現には腫瘍内低酸素分画を測定する方法や、それに起因する放射線抵抗性を克服する治療法の確立が希求されています。本研究では、上記の実現に繋がる因子を探索し、腫瘍内低酸素分画を予測する血漿マーカー、及び低酸素がん細胞に起因する放射線抵抗性を克服する治療標的として血漿蛋白質SPINK1を同定しました。

SPINK1は血漿マーカーおよび治療標的という2つの利用価値があると考えます。血漿SPINK1濃度を指標に腫瘍内低酸素量による患者層別化が可能になれば、予後推定や治療方針決定だけでなく、低酸素イメージングなどの詳細な検査の適応判断も可能になります。また、SPINK1は様々ながん腫で発現し、腫瘍内低酸素分画は早期がんでも認められることから、腫瘍マーカー(がんの存在診断)としての利用価値もあります。さらに、直接的な治療標的としてだけでなく、他の低酸素増感剤の適応判断にも利用できる可能性もあります。

本研究では、in vitroおよびin vivoの実験でSPINK1の有用性を立証しました。現在は研究成果を臨床に還元させるべく、本研究に関して、京都大学の支援を得て特許を出願し、京大病院で、血漿蛋白質 SPINK1 の有用性を検証する臨床研究を開始しています。今回の受賞を糧に、放射線治療の発展に貢献できるよう、今後も研究に邁進していく所存です。

最後になりましたが、研究をご指導頂きました京都大学大学院生命科学研究科の原田浩先生および同大学医学研究科の溝脇尚志先生をはじめ、研究に集中する環境を与えて頂いた研究室や部門内の皆様、日本放射線腫瘍学会の理事会および会員の皆様、ご推薦頂きました京都大学の松尾幸憲先生、そして日々サポートしてくれている家族、に深く御礼申し上げます。

梅垣賞

平田 秀成

平田 秀成

(国立がん研究センター東病院 放射線治療科)

歴史ある梅垣賞に選出頂き、身に余る光栄に存じます。御指導ならびにお力添え頂きました先生方、選考頂いたJASTRO賞等推薦委員会および理事の先生方、御推薦頂いた浜松医科大学 放射線腫瘍学講座 中村和正先生に、心より御礼申し上げます。

今回、「食道がんに対する化学放射線療法の治療抵抗性におけるがんゲノム異常の意義」を探索したトランスレーショナルリサーチの成果を選出頂きました。がんゲノム医療やprecision medicine、次世代シーケンサーという用語がそれほど一般的ではなかった2014年に研究を開始しました。当時は放射線治療領域における臨床試料解析の有用性は現在ほど明確ではなく、次世代シーケンサーを用いたゲノム解析に必須のプログラミング言語を覚えるところから始めた正に手探りの状態でした。結果の公表までに7年という多くの時間を要しましたが、その間、世界中で生命科学の大幅な進歩があり、特にバイオインフォマティクス解析技術の進歩をキャッチアップすることで、研究開始時には解明し得ない新たな知見を示すことも出来ました。そして、研究の過程では幾度となく様々な困難に遭遇しましたが、周囲の皆様の心温まる御支援で何とか乗り越え、治療抵抗性の原因の一端や、放射線治療の実施ががんゲノムに与える影響を明らかにすることが出来ました。ひとえにお力添え頂いた皆様のお陰であり、この場を借りて厚く御礼申し上げます。本研究の結果が治療抵抗性の理解を深め、難治がんの克服に少しでも役立てばと考えています。

この度の受賞を励みに放射線腫瘍学の発展に貢献できるよう、より一層精進して参りますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。誠にありがとうございました。

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