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No.206
固形がん転移患者における局所放射線治療と顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)によるアブスコパル反応:臨床的概念の実証

Local radiotherapy and granulocyte-macrophage colony-stimulating factor to generate abscopal responses in patients with metastatic solid tumours: a proof-of-principle trial.

Golden EB, Chhabra A, Formenti SC et al
Lancet Oncol. 2015 Jul;16(7):795-803

背景

アブスコパル反応(遠達反応)とは放射線照射による腫瘍免疫応答が生じ、照射野外の離れた部位の腫瘍が縮小する現象を指す。GM-CSFは樹状細胞の成熟に対する潜在的刺激因子ある。放射線照射とGM-CSFが癌転移患者に対し、免疫反応により遠達反応を生じさせると仮定し、実証するためにこの研究をおこなった。

対象と方法

[対象] 転移病変を有する固形癌で、単一薬剤の化学療法かホルモン療法により研究開始前6週間SDもしくはPDで少なくとも3か所の独立した測定可能病変を有する症例。

[方法] 1-2週目に1部位目の病変に対し放射線治療を35Gy/10回施行し、2-3週目にGM-CSFを連日で投与。化学療法もしくはホルモン療法を継続メニューで同時併用。4週目から2部位目の病変にも同様のスケジュールで治療を施行。評価は7-8週目にCT,FDG-PET-CTにて非照射部位の遠達反応を計測。
主要評価項目は遠達反応が発生した割合(少なくとも最大径が30%以上縮小(最大効果出現時)、副次的評価項目は安全性と生存率。

結果

2003〜2012年に41例の転移癌症例が登録された。予定通りの治療を完遂した症例は30/41例。遠達反応は11/41例(26.8%,95%CI 14.2-42.9)に認められた。遠達反応を認めた症例の原疾患は、非小細胞肺癌4例、乳癌5例、胸腺癌2例。有害事象はgrade3-4の倦怠感6例、血液系10例。1例でgrade4の肺塞栓が生じた。観察期間の中央値は5.62年であり、OSは遠達反応有群で中央値20.98か月(95%CI 11.05-30.96)、無群で8.33か月(95%CI 5.03-13.29)HR2.06(95%CI 1.04-4.11)であった。背景因子では性別、前治療、年齢、治療前Hb値・白血球数は遠達反応の有無による差はみられなかったが、好中球/リンパ球比は遠達反応有群で2.29、無群で4.24と、相対的に好中球数が少ない症例で遠達反応を認めた。

考察

放射線治療単独時に比べ、免疫療法との併用により遠達反応の報告が増えている。本研究ではGM-CSFと放射線治療の併用により20%以上の症例で遠達反応を認め、放射線による免疫応答の誘発の機序が存在することが示唆された。また遠達反応がみられた症例では生存期間が延長していた。それらの症例では好中球/リンパ球比が低く、好中球が放射線誘発免疫応答を抑制している可能性があり、放射線と免疫療法併用時に遠達反応の予測因子として有用と考えられた。今後生体内での腫瘍ワクチンの確立などにつながる研究も期待される。

コメント

まだ新人であった時、"放射線治療により、照射していない場所の腫瘍も小さくなることがあり、アブスコパル効果というんだ"と教えられたことがあった。その時代はまだ免疫応答などの研究が今ほど進んでおらず、一体何故そのような現象が生じるのか不思議であった思い出がある。近年になり、培養細胞やマウス等の実験動物系では放射線-免疫応答の研究も進み、論文も数多く報告されているが、ヒトに関しては依然症例報告レベルに留まっていた。
本研究のデザインは、一般的に免疫療法単独では効果が期待されていない種の固形癌症例を対象としており、更に複数個存在する病変に対し敢えて一部のみに照射する、SDもしくはPDの化学療法・ホルモン療法を研究期間中も継続という、症例集積が難しいことが容易に予想される内容である。実際に症例集積に10年を費やしているが、ヒトの遠達反応における唯一の前向き臨床研究であり、今後同様の研究が行われる可能性は低く、放射線-免疫療法のevidenceとして極めて貴重な報告と考えられる。

Evidence Level 4
PMID: 26095785

(東京女子医科大・泉佐知子)

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