第2回小線源部会 (2000年)


日時:平成12年6月10日(土)

会場:笹川記念会館(東京都品川区)

世話人:池田 恢 ( 国立ガンセンター東病院)

 

[1] ビデオシンポジウム:骨盤領域の組織内照射

1. 直腸癌術後の局所再発に対する小線源治療の経験

和歌山医大放,2外*,麻酔**:岸 和史,石本喜和男*,岡本一仁**,竹内 希,諏訪和宏,白井信太郎,石井清午,中井資貴,佐藤守男

2. 局所再発直腸癌に対するReal-time CT fluoroscopyを用いた組織内照射針刺入術

群馬大学放:桜井英幸,三橋紀夫,村松博之,黒崎弘正,秋元哲夫,石川 仁,斉藤淳一,中山優子,早川和重,新部英男

3. CT透視下刺入による骨盤内腫瘍に対する組織内照射

栃木がんセ放治:築山 巌,片野進,浅賀昭彦,仲山昌宏,幸田好弘,大木久枝

4. 前立腺癌に対する低線量率Ir-192を用いた組織内照射

国立東京医療セ放,泌*:土器屋卓志,戸矢和仁,川瀬貴嗣,斉藤史郎*,門間哲雄*

5. 前立腺癌に対する高線量率多分割組織内照射 

阪大バイオ集放治,大阪成人病セ放治,国立大阪放,阪大放:吉岡靖生,能勢隆之,吉田 謙,井上俊彦,井上武宏,山崎秀哉,田中英一,塩見浩也,今井 敦,中村聡明,島本茂利

6. 前立腺癌の高線量率組織内照射

川崎医大放〔治療〕:平塚純一,余田栄作, 今城吉成

7. 骨盤部腫瘍の経会陰的高線量率組織内照射の経験

国立国際医療セ放治,東大放*:伊丹 純, 柴田幸司,中島香織,有賀 隆,原 竜介,阿部容久*

8. 再発子宮癌に対する高線量率分割組織内照射

阪大バイオ集放治:田中英一,今井 敦,島本茂利,鈴木 弦,吉岡靖生,中村聡明,山崎秀哉,井上武宏,井上俊彦

9. 婦人科領域の再発腫瘍に対する組織内照射

国立札幌北海道がんセ放:西尾正道,明神美弥子,西山典明,米坂祥明,白井敬祐

 

[2] シンポジウム「小線源治療を取り巻く環境」

10. The 2nd Joint International Meeting of ABS, GEC-ESTRO, GLAC参加報告

浜松医大放:西村哲夫

11. ICRU Report 58の方向と問題点

広島大学放射線科:広川 裕

12. わが国の小線源治療の現状

国立がんセンター東病院放射線部:池田 恢

13.法規制の改正について

国立病院東京医療センター放射線科:土器屋卓志

 

[3] 自慢症例,失敗症例,一般演題

14. 高線量率192Ir線源による舌癌の組織内照射後の頸部播種の1例 

浜松医大放,聖隷浜松腫瘍治療:西村哲夫,鈴木一徳,今井美智子,鈴木佐知子,阪原晴海,野末政志

15. T3 N2b舌癌に対する放射線治療の一例

阪大歯放,医バイオ集放治*:柿本直也,中谷温紀,村上秀明,古川惣平,井上武宏*,井上俊彦*

16. 198Auグレインによる組織内照射を行った局所進行耳下腺腫瘍術後再発の一例

奈良医大腫放,放:吉村 均,玉本哲郎,浅川勇雄,堀川典子,辻 佳彦,福神 敏,宇都文昭,大石 元,打田日出夫

17. イリジウム組織内照射が有効であった再発子宮頸癌の1例

札幌医大放:永倉久泰,染谷正則,庄内孝春,大内 敦,坂田耕一,晴山雅人

18. 下部進行直腸癌に対する術前高線量率腔内照射─10年間の治療成績の検討─

奈良医大腫放,放,一外:堀川典子,吉村均,玉本哲郎,浅川勇雄,福神敏,辻 佳彦,宇都文昭,大石 元,打田日出夫,藤井久男,中野博重

19. 125I seeds線源使用時における患者周辺線量当量率測定と積算線量の試算

国立東京医療セ放,国際医療福祉大放・情報科学*:佐々木徹,土器屋卓志,橋本光康*

 

[4] Work in Progress

20. VariSource-200HDR remote-after-loader (株式会社バリアンメディカルシステムズ)

21. ガンマメッドプラス (シーアイエスダイアグノスティック社)

 

日本放射線腫瘍学会小線源治療部会─第2回研究会抄録─

 

[1] ビデオシンポジウム:骨盤領域の組織内照射

1. 直腸癌術後の局所再発に対する小線源治療の経験

和歌山医大放,2外*,麻酔**:岸 和史,石本喜和男*,岡本一仁**,竹内 希,諏訪和宏,白井信太郎,石井清午,中井資貴,佐藤守男

 

【はじめに】直腸癌術後の局所再発率は5-34.3%で,多くは疼痛とADL制限があり,外部照射では再発巣を十分制御できない.一部で小線源組織内照射も行われてきた.我々は再発例に対して外照射と組織内照射を行った.対象と方法:99年度から直腸癌術後局所再発患者9人が小線源治療を含む放射線治療のスケジュールに入った.再発までの期間は1057±547日で,7人は疼痛があり,6名は鎮痛剤を服用(モルヒネ1名)しかつADL障害があり,8名はCEA高値であった.

【治療方法】2名は先行した小骨盤外部照射に追加する小線源治療として,8名では再発頻度の高い領域に誂えた4門照射野で45-50 Gy,次に腫瘍局所に10-25 Gy,計60-70 Gyの外照射後に小線源治療を行った.小線源治療は8名では仙骨硬膜外麻酔を施し組織内照射針をCTガイド下で経会陰式に仙骨前面/仙骨坐骨間の腫瘍巣に刺入,マイクロセレクトロンHDR192Irで6 Gy×3-4回(計18-24 Gy/2日)照射した.1例では腔内照射で2.5 Gy×4回であった.

【結果】全評価可能例で疼痛消失し鎮痛剤不要となり,有意なCEA値低下をみた.画像的には5例でNC-PRで,1例でCRで,合併症をCR例に見た.2例では外照射野内で組織内照射されていない部分から腫瘍再発と疼痛発生があり,組織内照射の追加で疼痛消失をえた.

【結語】直腸癌術後の局所再発に対する小線源治療は,少なくとも簡便で非常に効果的な治療であること,および,戦略的な工夫の可能性がまだまだあることが示唆された.

2. 局所再発直腸癌に対するReal-time CT fluoroscopyを用いた組織内照射針刺入術

群馬大学放:桜井英幸,三橋紀夫,村松博之,黒崎弘正,秋元哲夫,石川 仁,斉藤淳一,

中山優子,早川和重,新部英男

 

 再手術不能な直腸癌の術後局所再発例に対し,リアルタイムCT透視を用いて組織内照射針の刺入を行っているのでその方法を紹介する.線源ガイド針(Nucletron社製20 cm,16 cm針)の刺入はCT透視下に左側臥位で行った.6例に組織内照射針刺入を行い,3例ではテンプレートを使用し刺入を行った.テンプレートを使用しない場合の照射針の固定は,歯科用シリコン素材または外照射用シェルを用いた.CT透視時間は1例あたり平均459秒で,術者の被曝線量は透視1分あたり胸部50.2 μSvで,プロテクター着用の場合,胸部18.0μSv,腹部8.9 μSvであったが,手技の向上とともに漸減し,最近の例では2分以内となっている.線量の評価点は原則として線源から5 mm外側としたが,2例でターゲット表面に線量評価点を設定した.1回線量は5 Gyとし1日2回法で連日照射を行い,総線量30-50 Gyの照射を行った.1例でガイド針抜去後に坐骨神経損傷が明らかとなった.リアルタイムCT透視の利用は,癒着した小腸などのリスク臓器の近傍まで正確に照射針を刺入する事が可能であり,線源ガイド針刺入時に有用と考えられた.

 

3.  CT透視下刺入による骨盤内腫瘍に対する組織内照射

栃木がんセ放治:築山 巌,片野進,浅賀昭彦,仲山昌宏,幸田好弘,大木久枝

 

 高線量率イリジュウムは従来のコバルトやセシウムの低線量率のRALSに比べ線源の大きさが極めて小さく適応の拡大が図れるという特徴を有しており幾つかの試みが行われている.直腸癌,子宮癌等の再発骨盤内腫瘍や前立腺癌に対してCT透視下刺入による組織内照射を行ってきた.今回その手技を中心としてビデオで紹介する.

4. 前立腺癌に対する低線量率Ir-192を用いた組織内照射

国立東京医療セ放,泌*:土器屋卓志,戸矢和仁,川瀬貴嗣,斉藤史郎*,門間哲雄*

 

【目的】限局性前立腺癌に対して低線量率Ir-192ワイア線源による組織内照射を行いその効果と技術的な問題を考察する.これは欧米で標準治療のひとつとなっている永久刺入線源による放射線治療をわが国で実施できるまでの過渡的な治療方法であると考えるが,線源の一時装着による患者・医療者の負担を除けば低線量率照射の特質を生かした効果的な癌治療であると考えられる.方法:平成9年から開始した21例の限局性前立腺癌の治療経験を主に技術的なことと短期的な成績について報告する.

【結果】当初の19例の成績からPSAが25 ng/ml以上の症例ではbiochemical relapseが高率であり,この群は今後は外照射を併用することにした.性機能の温存率は高率に確認できた.         

5. 前立腺癌に対する高線量率多分割組織内照射

阪大バイオ集放治,大阪成人病セ放治,国立大阪放,阪大放:吉岡靖生,能勢隆之,吉田 謙,井上俊彦,井上武宏,山崎秀哉,田中英一,塩見浩也,今井 敦,中村聡明,島本茂利

 

【背景】前立腺癌の制御に線量の増加が有効であることはよく知られている.小線源治療は原体照射やIMRTと並んで局所の線量増加に適した方法である.しかも照射容積は他の照射法より一般に小さく,日々の臓器の動きに強いという利点がある.世界的に高線量率組織内照射は外照射と併用されるが,当施設では上記の利点を生かすため組織内照射単独治療を行っている.

【方法】1994年1月から2000年4月までに,前立腺癌40症例に対して第3世代リモートアフターローダを用いた高線量率多分割組織内照射を行った.そのうち外照射を併用せず,治療後1年以上経過した22例について述べる.19例はT3以上または治療前PSA>20 ng/mlであったためホルモン療法を併用した.経直腸エコー下で線源ガイド針を経会陰式に刺入した.PLATOにより最適化された線量分布を作成し,192Irマイクロ線源による高線量率照射を行った.照射は1回6 Gyで1日に2回,治療の間隔は6時間以上とした.総線量は48 Gy/8回ないし54 Gy/9回であった.

【結果】放射線に関連した有害事象はGrade 3以上のものは認めなかった.現在触診,画像診断上は22例全例で局所制御できている.生化学的制御率は4年で55%である.

【結論】前立腺癌に対する高線量率多分割組織内照射は単独治療としても安全で有効な治療と考えられる.

 

6. 前立腺癌の高線量率組織内照射

川崎医大放〔治療〕:平塚純一,余田栄作,今城吉成

 

 当院では,1997年10月から前立腺癌に対する高線量率組織内照射(以下HDR-ISRT)を開始した.治療内容は,骨盤部へ外照射(4門照射)で45 Gy/25回を配分し,それに加えてHDR-ISRT 5.5 Gy×3回/2日(1999年9月以後は5.5 Gy×4回/2日に変更)を施行している.アプリケーター刺入は,サドル・ブロック麻酔下でTRUSとテンプレートを用いて,前日決めた刺入計画に添って刺入する.刺入するアプリケーターは,TRUS画像上,金属針のstrong echoとして認められ,TRUS画像の横断像と矢状断像でモニターすることにより前立腺と精嚢の全長にアプリケーターが及ぶように刺入できる.刺入本数は,12〜18本(平均16本)で20〜30分で刺入できる.アプリケーターをテンプレートごと会陰部に固定する.その後のCT画像に刺入時のTRUS画像を加味して治療計画を立てる.線量評価は被膜外浸潤の有無にもよるが,線源の外側5 mm〜8 mmで行っている.放射線照射による急性反応は,ほぼ全例に認めたが,いずれも軽度〜中程度で,処置を要するほどの反応は認めなかった.本療法は,高齢者に対しても過度の肉体的負担をかけることなく,安全に施行できる治療法と考える.

7. 骨盤部腫瘍の経会陰的高線量率組織内照射の経験

国立国際医療セ放治,東大放*:伊丹 純,柴田幸司,中島香織,有賀 隆,原 竜介,阿部容久*

 

 1997年10月以来,17例の骨盤領域悪性腫瘍に対して硬麻下に19件の高線量率組織内照射を施行した.内訳は,前立腺癌2例,子宮頸癌新鮮例4例,術後1例,局所再発4例,直腸癌局所再発4例,膣癌1例,卵巣癌膣再発1例である.17件ではAOL社製のテンプレートを使用し,CTでの治療計画に従って刺入を行った.アプリケータ刺入本数は平均14本(23-5)であった.刺入後,直腸指診でアプリケータが直腸を穿通していないことを確認した.刺入および抜去に起因する障害は認めなかった.全例でgeometrical optimizationが行われ,大部分の症例では組織内照射線量は最外側アプリケータより5 mm外側の点で表現された.評価点線量で囲まれる容積は,16 ccから273 ccにおよび,平均106 ccであった.1回線量は平均4.5 Gy(2.5-6 Gy),組織内総線量は平均26 Gy(15-48 Gy)であった.追跡期間平均は8ヶ月(1-22ヶ月)と短いが,13/19で局所制御されている.外部照射線量が多かった1例で生検後膿瘍形成し敗血症で死亡した.その他,3例でgrade 1または2の有害事象を見た.本治療法は安全で有効な治療法である.

8. 再発子宮癌に対する高線量率分割組織内照射

阪大バイオ集放治:田中英一,今井 敦,

        島本茂利,鈴木 弦,吉岡靖生,中村聡明,

        山崎秀哉,井上武宏,井上俊彦

 

【目的】子宮癌の骨盤内再発に対し,1992年3月より施行している高線量率組織内照射(HDR-ISRT)について治療方法,成績を紹介する.

【対象と方法】対象は1999年12月までに治療した36例(頸癌27例,体癌9例)である.うち24例は放射線治療の既往がある.原則として腫瘍径4 cm以下で転移のないものを適応としている.追跡期間の中央値は17ヶ月(5-55ヶ月)である.HDR-ISRTは線源ガイド用金属針を経直腸エコー下に経会陰的に刺入し(刺入本数中央値15本),刺入後のCTをもとに線量分布を作成し,1日2回連日照射する.現在では,線量は42-48 Gy/7-8回/4-5日としている.

【結果】全例で安全に照射を完遂できた.照射容積の中央値は70 cc(23-202 cc)であった.局所制御率は1年:83%,3年:72%,生存率は1年:84%,3年:61%であった.有害事象は再照射症例のみにみられ,腟壊死,直腸腟瘻,膀胱腟瘻を6例に認めたがうち3例は再発を伴なっていた.

【結論】HDR-ISRTは有効な治療法と考えられる.照射後再発も適応になる.

 

9. 婦人科領域の再発腫瘍に対する組織内照射

国立札幌北海道がんセ放:西尾正道,明神美弥子,西山典明,米坂祥明,白井敬祐

 

 1983年10月より2000年5月の期間に女性泌尿生殖器領域の進行・再発癌に対して組織内照射を行った42例の照射技術と遠隔成績を報告した.年齢分布は27-81才(平均60才),全身状態はPS 0:2例,PS 1:16例,PS 2:23例,PS 3:1例で,新鮮例:9例,再発・転移例:33例であった.また組織内照射部位に以前に照射歴を有していたのは23例(根治:15例,術後:7例,術前:1例)であった.原発部位としては,子宮頸癌:21例,子宮体癌:7例,膣癌:3例,外陰癌:4例,膀胱・尿道癌:4例,直腸癌:2例,乳癌:1例であり,組織型は扁平上皮癌:26例,腺癌:12例,移行上皮癌:3例,悪性黒色腫:1例であった.組織内照射部位は,原発巣および周囲再発巣:37例,転移巣:5例で,具体的には子宮頸部:2例,膣断端および膣:21例,会陰部:3例,外陰・尿道部:5例,傍結合織・骨盤壁:4例であった.使用線源はCs-針:21例,Ir-wire, seed:17例,Au-粒子:4例であった.組織内照射単独の22例の線量は47 Gy-103 Gy(平均64.9 Gy),外照射+組織内照射で治療した20例では,外照射は26 Gy-66 Gy(平均45.6 Gy),組織内照射は24 Gy-65 Gy(平均38.3 Gy)であった.なお計算は線源中心から5 mmまたは粘膜下5 mmをreference pointとし,テンプレートや注射筒などの自作アプリケーターを症例毎に工夫して使用した.一次効果はCR:35例(83%),PR:7例で,5年局所制御率は55%,5年累積生存率は46%であった.晩期有害事象と対処療法の内容は,一次例では出血性膀胱炎:1例,再発・転移例では出血性膀胱炎:1例,陰部潰瘍:3例,尿道潰瘍:1例,膀胱膣瘻:4例,直腸膣瘻:2例で,人工肛門造設:3例,尿路変更術:2例であった.女性泌尿生殖器領域への組織内照射は,刺入手技は未確立であり,個別化した対応が必要であるが,良好な線量分布を得る工夫により,従来は救済が難しかった進行・再発癌に対しても,根治的治療の可能性が示唆された.

[2] シンポジウム「小線源治療を取り巻く環境」

10.  The 2nd Joint International Meeting of ABS, GEC-ESTRO, GLAC参加報告

浜松医大放:西村哲夫

 

 本年5月19日〜21日に米国Washington DC郊外で開催された小線源治療の国際学会に参加したので報告する.この学会は正式にはThe 2nd Joint International Meeting of the American Brachytherapy Society (ABS), Groupe Europeen de Curietherapie (GEC)-European Society for Therapeutic Radiology and Oncology (ESTRO), Grupo Latino Americano Curieterapia (GLAC)と呼ばれ,4年前にフランスToursでの第1回の合同学会に引き続いて米国で開かれたものである.

 初日はすべて前立腺の演題に絞って討議がなされた.2日目はCurie Medal Lectureが今年80歳を迎えるフランスの大御所Bernard B. Pierquinによって行われ,頭頸部,気管支,乳腺,婦人科領域を中心に一般演題が発表された.最終日はJames FontanesiによりOcular melanomaについての会長講演が行われ,血管内治療と再び前立腺癌の演題が続いた.全部の演題中40%近くは前立腺関係であり,世界的に関心の高いことを再認識した.

 

11.  ICRU Report 58の方向と問題点

広島大学放射線科:広川 裕

 

 ICRUが「組織内治療の報告書における線量と体積指定」という報告書(ICRU58,1997年)を出版した.ICRUではいままでに,放射線治療における線量指定に関連して,ICRU29,ICRU50,ICRU38を出版してきた.ICRU58は,これらの報告書で用いられた線量・体積指定に関する定義を,組織内照射および他の小線源治療へ適用したものである.

 近年の小線源治療では,小型の線源を装填したアフターローディング装置が広く使われている.これらの治療計画においては,3次元的な線源位置取得と線量計算・線量分布表示が可能になり,状況は古典的小線源治療の時代とはかなり変化している.

 外部照射における線量と体積指定の考え方は,小線源治療においても可能な範囲で同一の用語・概念を使うことが望ましい.その観点から,本報告書においては標的体積に関する定義は外部照射での定義と一致したものになっている.外部照射と異なり,小線源治療では臨床標的体積内の大きな線量勾配のため,1点の線量指定だけでは意味がないので,臨床標的体積の中心部で線量勾配が平坦な複数点の線量を指定することとしている.また,臨床標的体積の周囲における最小線量も,記録することが推奨されている.

 今までのICRUの報告書と同様に,本報告書はヨーロッパの中でもフランス学派の考え方を強く反映したものである.本報告書が出版されて以来,種々の意見や批判があることも事実のようであるが,国際的なコンセンサス作りが遅れていた領域であり,この報告書の意義は大きい.

12. わが国の小線源治療の現状

国立がんセンター東病院放射線部:池田 恢

 

 わが国の小線源治療の現状につき,日本医学放射線学会専門医修練機関年次報告書内容(1998年実績)および月刊「新医療」2000年1月収載データから集計した.今回,この報告のための新たな質問調査は行っていない.専門医制度認定委員会には事前了解を得た.認定修練機関277のうち,小線源治療可能施設数は171(他に「他施設に小線源治療を依頼している場合」の施設が37)施設であった.北日本:20,関東(甲信を含む):56,中部:21,関西:26,中四国:26,九州:22で地域差がみられた.12県で県内に修練施設が1か所のみであった.設備の内訳は高線量率Co装置が93施設,Irが52施設,低線量率Ra:36施設,Cs:47,Ir:45,Au:49.年間治療例数50例以上:29,10以上50未満:77,10以下:68であった.年間10例以下と使用頻度の低い施設に高線量率Co(35施設)および低線量率Ra(18施設)の保有が多い傾向がある.2000年1月時点では高線量率Co装置はかなり急速に不使用(33)・置き換え(13)の動きがあり,高線量率Co施設は47に減少している(不使用施設でIr装置が未承認のところが多いと思われる).今後は医療放射線の関連学会,協会において,データベースの統一化を図り,あわせて小線源の安全管理を充実させるため,日本アイソトープ協会医学・薬学部会放射線治療委員会で「小線源治療データベースワーキンググループ」(主査:渋谷均東京医科歯科大学教授)が発足予定である.

 

13.法規制の改正について

国立病院東京医療センター放射線科: 土器屋卓志

 

 放射線を利用する医療用具,装置あるいは線源の改良・開発は著しく進歩して今まで想定しなかったような放射線診療が始まろうとしている.これらの新しい医療技術がわが国の法規制に阻まれて実施できない状況が生じている.これらの事態に対して法規制の改正作業が精力的に行われている.その作業の中から特に放射線診療(診断,核医学,治療)に深くかかわる項目は次のようなものがある.

1. 核医学撮像装置の吸収補正用線源について

2. 核医学撮像装置の使用室におけるエックス線装置(CT装置)の使用について

3. リニアック装置による治療中のエックス線透視について

4. 血管内放射線治療について

5. 移動型リニアックの手術室での使用について

6. 移動型CT装置の使用について

7. 一定量以下の線源についての二重規制の緩和について

8. 適切な退室基準下では診療用放射線器具(密封小線源)により治療を受けている患者を放射線治療病室に収容しなくても良いこととする.

 これらのうち1〜6については「使用場所の制限」の緩和として本年3月末に具体的な報告書が放射線審議会に提出されて法改正のための作業が進んでいる.また二重規制の緩和については平成13年度からの実施の見込みである.血管内放射線治療と密封小線源治療の退室基準についてはガイドライン作成作業が順調に進んでいる.上記の改正の付帯条件として「適切な団体あるいは学会等が中心となって安全使用のための教育訓練実施等を含めた安全管理の具体的な在り方を検討」するように要望されており,今後は学会として法規制に対する主体的な参画が必要となる.

[3] 自慢症例,失敗症例,一般演題

14.  高線量率192Ir線源による舌癌の組織内照射後の頸部播種の1例 

浜松医大放,聖隷浜松腫瘍治療:西村哲夫,鈴木一徳,今井美智子,鈴木佐知子,阪原晴海,野末政志

 

 症例は46歳女性.左舌縁のT2N0の高分化型扁平上皮癌で,テレコバルトで左右対向2門20 Gy/10回/2週の照射の2週間後に2平面刺入でアプリケータを7本装着した.皮膚の刺入点は通常より低位となった.組織内照射は線源から5 mm外側に50 Gy/10回/5日間を治療した.照射後2.5ヶ月で頸部のアプリケータの装着範囲内の非照射部位に腫瘍が出現した.9日後頸部郭清術を行い,顎下腺を含む頸部軟部組織内の癌細胞の浸潤により播種と診断された.郭清術の35日後より左頸部に50 Gy/25回/36日を追加照射した.初回治療4年を経過したが,再発転移および合併症は認められていない.本症例では癌病巣は軟部組織にあり,摘出されたリンパ節には転移病巣を認めなかったことから刺入に伴う播種と診断された.播種の要因として,腫瘍を直接刺入したことや皮膚の穿刺部が低位になったため刺入範囲の延長が挙げられた.その後頸部よりガイド針を刺入し口腔側より皮膚に向かってアプリケータを装着する方法を止め,先端が針状のアプリケータを皮膚側より直接刺入する方法を用してからは,播種と思われる症例は経験していない.尚本例の経過は日本医放会誌(57: 281-282, 1997)に報告した.

 

15.  T3 N2b舌癌に対する放射線治療の一例

阪大歯放,医バイオ集放治*:柿本直也,中谷温紀,村上秀明,古川惣平,井上武宏*,井上俊彦*

 

 患者は33歳の男性で,左側舌縁部の接触時痛を主訴に来院した.初診時の所見では,左側舌縁部に47×31×25 mmの腫瘤を認め,表面粘膜は赤白混在する潰瘍状態を呈していた.左側顎下部に20 mmφ1個,10 mmφ2個のリンパ節が触れ,弾性硬で,やや固着していた.舌病巣からの生検では,高分化型の扁平上皮癌と診断され,舌亜全摘と左側全頸部郭清を勧められた.患者は舌に対する手術を堅く拒否したが,頸部の手術は容認できるということで,以下の治療法が計画された.1) 外部照射(リニアック)→舌,上・中頸部 2) 高線量率組織内照射 3) 根治的頸部郭清術 外部照射は左右対向2門にて,1日1回,1回3 Gyで39 Gyを施行した.外部照射中に増大してきた左側上内深頸リンパ節に対しては,12 MeV,5 cmφの電子線にてfield in the field法を用いて1日1回,1回1 Gyで15 Gyを施行した.マイクロセレクトロンを使用した組織内照射は,立体刺入でチューブ数11本とし,1日2回,1回6 Gyで48 Gyを施行した.手術材料からの病理組織学的検査では,2個の内深頸リンパ節に転移を認めた.放射線治療終了後約2年が経過したが,予後は良好である.

16.  198Auグレインによる組織内照射を行った局所進行耳下腺腫瘍術後再発の一例

奈良医大腫放,放:吉村 均,玉本哲郎,

        浅川勇雄,堀川典子,辻 佳彦,福神 敏,

        宇都文昭,大石 元,打田日出夫

 

 76歳男性,右耳下腺腫瘍(T4N0,stage IV,扁平上皮癌)の術後約3ヶ月後に右頬部皮膚に痛みを伴う腫瘍の再発がみられた.カルボプラチンによる化学療法と総線量90 Gyの外部照射(電子線)を行ったが治療効果は不良であった.さらに腫瘍が増大してきたため,198Auグレイン(185 MBq×13,永久照射線量9488 cGy)による組織内照射を行った.約3ヶ月の経過で腫瘍は消失した.それから約1年後,隣接した前方の皮膚に腫瘍の再発が認められ,再度198Auグレイン(185 MBq×10,永久照射線量11776 cGy)による組織内照射を行った.腫瘍は皮膚潰瘍を伴って消失したが,それから約6ヶ月後に局所再発を認め,2回の温熱療法を施行したが無効で,その後,腫瘍の口腔内進展と肺転移をきたし呼吸不全で死亡した.当科に紹介されてから約2年半の経過であったが,患者は高齢かつPS不良で,さらに外部照射無効であり198Auグレインによる小線源治療は,延命とQOLの向上に大きく寄与したものと考える.しかし,過線量により,皮膚壊死と潰瘍をきたしたことは反省すべきであると考える.

17.  イリジウム組織内照射が有効であった再発子宮頸癌の1例

札幌医大放:永倉久泰,染谷正則,庄内孝春,大内 敦,坂田耕一,晴山雅人

 

 子宮全摘出後に生じた断端癌の放射線治療後膣粘膜下の再発に対してイリジウム組織内照射が極めて有効であった1例を経験したので報告する.患者は72歳女性で,37年前に子宮筋腫にて2回の手術歴がある.平成6年3月,不正出血にて某婦人科受診し子宮頸癌と診断され当科を紹介された.病理学的診断は扁平上皮癌(大細胞非角化型)で,断端から3 cmに及ぶ腫瘍による高度の膣狭窄と軽度の子宮傍組織の浸潤を認め,断端癌stageUa,bと診断した.平成6年4月,10 MVライナックX線にて50 Gy/25分割の全骨盤照射の後,両側子宮傍組織に2 Gy/1分割の追加照射を行い,さらに20 mgRa当量のセシウム管1本をタンデムに挿入し膣粘膜下5 mmで25 Gy/2分割の腟腔内照射を行った.平成7年3月,膣上部後壁右側の粘膜下に硬結を触れ,徐々に増大し2.5 cm×2.5 cm×厚さ1.0 cmに増大した時点で組織学的に再発と診断された.腫瘍は直腸と膣の間に存在し手術では人工肛門造設術が必要と考えられたが高齢の為手術適応とはならず,平成7年7月,膣壁からのイリジウムワイヤー一面刺入にて線源より5 mmで60 Gy/9日の組織内照射を行った.ワイヤー長は5 cm,外側は6 mCi 2本,内側は2mCi 3本の計5本を用いた.平成7年8月から腫瘤は触知不能となり,平成12年3月現在,内科的治療を要しない程度の排便時出血を認めるのみで無再発生存中である.

 

18.  下部進行直腸癌に対する術前高線量率腔内照射─10年間の治療成績の検討─

奈良医大腫放,放,一外:堀川典子,吉村均,玉本哲郎,浅川勇雄,福神敏,辻 佳彦,宇都文昭,大石 元,打田日出夫,藤井久男,中野博重

 

 1989年5月から1999年4月までの10年間における下部進行直腸癌に対する外部照射と高線量率腔内照射を併用した術前放射線治療成績を検討した.対象は45例で,男性36例,女性9例,年齢27-78歳(平均60歳),腫瘍主占拠部位はRaRb9例,Rb25例,RbP11例(以下照射群),腔内照射は60Co38例,192Ir7例で30-40 Gy/3-4 Fr(線量評価点は線源から1.0,1.5 cm,2 cm),外照射は10 MVXの前後対向2門により全骨盤腔に30-40 Gy/15-20 Frを照射した.手術術式はAPR40例,LAR5例であった.5,10年累積生存率は83%,83%であった.局所再発率は4例(9%),遠隔転移は肺に3例(7%),皮膚に1例(2%),照射中の合併症で途中で治療を中断したものはなく一過性で,術後の合併症は,1例のみは外科的処置が必要であったが他はすべて内科的処置により回復可能であった.進行下部直腸癌に対する外部照射併用腔内照射による術前照射は,安全に腫瘍局所に大線量を与えることができ,局所再発の制御に優れ,生存率の改善に寄与することが示唆された.

19.  125I seeds線源使用時における患者周辺線量当量率測定と積算線量の試算

国立東京医療セ放,国際医療福祉大放・情報科学*:佐々木徹,土器屋卓志,橋本光康*

 

【はじめに】125I seedsを使用した前立腺癌に対する組織内治療法は欧米では盛んに施行されている治療法の一つである.しかしながら日本国内では法規制の関係上,現在に於いては普及するに至っていない。

【目的】125I seeds線源の国内での普及を希求し,実際にこの線源を使用した場合を模擬し,患者周囲の者がうける1 mの距離における1 cm線量当量率を算出する基礎データを取得する事,次いで日本国内において125I seeds線源を使用した場合の退出基準,使用基準の検討と安全性の担保を得る事を目的とした.

【方法】人体ファントムの前立腺部分に125I seedsを50個(437.5 MBq)挿入し,ファントム表面から1 mの距離における1 cm線量当量率の測定を,axial,sagittal方向にて行った.

【結果】測定の結果,ファントム表面より1 mの距離における1 cm線量当量率定数は0.0014μSv・m2・MBq-1・h-1となった.この値の試算では介護者の線量拘束値である一行為あたり5 mSv以下(IAEA国際原子力機関)という勧告値を十分クリア出来る数値となった.又,この数値では外来での治療が十分可能と思われる.

[4] Work in Progress

20. VariSource-200HDR remote-after-loader (株式会社バリアンメディカルシステムズ)

21. ガンマメッドプラス (シーアイエスダイアグノスティック社)